第359章 そんなに急いで去るの?

桜井美月は虚ろな目をして、必死に体を起こし、痛みで荒い息を何度も吐いた。

黒川芽衣は目を細め、腕を組んで、不機嫌そうに口角を下げた。

黒川家の地下牢では、黒川啓太も彼女を人間扱いしなかったが、ここまでひどく痛めつけることはなかった。

桜井美月は自分の血を分けた子供なのだから、もし拷問で死なせてしまったら、使い勝手の良い刃を失うことになる。

桜井美月は息を整え、短く笑い、また咳き込んだ。

しばらくして呼吸が落ち着くと、冷たく掠れた声で話し始めた。「その気持ち悪い目つきはやめて。私の状態は確かにひどいけど、浅野秀正は約束は守ってくれた。彼から何かを得ようとすれば、誰も無傷では済まないわ」

それは自分自身への警告であり、黒川芽衣への警告でもあった。

浅野秀正は帝都に突然現れた悪魔のような存在で、気まぐれで無法者、常識に縛られず、相手の急所を狙って攻撃してくる。