寺田通は眉をひそめ、頭を掻きながら、少し困ったような表情を浮かべた。
「言いたくないんだが、本当にここを新居にするつもりか?」
浅野武樹の呼吸音が電話の向こうからゆっくりと伝わってきた。それは男の無言の承認だった。
寺田通は目の前が真っ暗になりそうなほど腹が立った。「これは絶対に小山お嬢さんに知られてはいけない。知ったら怒るだろう。彼女をなんだと思っているんだ?小山お嬢さんは黒川家のお嬢様なんだぞ。将来、泉の別荘も彼女のものになるんだ。この森の別荘なんて必要ないはずだ。」
浅野武樹は寺田通の矢継ぎ早の言葉に言葉を失ったが、不思議なことに怒る気にもならなかった。
小山千恵子に関することなら、彼はなぜか怒る気にもなれないようだった。
自分がこんなに人に振り回される一面を持っているとは、これまで考えたこともなかった。