第410章 1ヶ月の期限

浅野武樹は深いため息をつき、心の中で葛藤が止まらなかった。

今の彼は情理の上でも、小山千恵子に何も隠すべきではなかった。

しかし、なぜ黒川啓太が特に小山千恵子を遠ざけ、南アメリカのこの混沌とした状況に巻き込まれないようにしているのかも理解していた。

長い息を吐き、浅野武樹は重々しくうなずいた。

「はい、どうされますか?」

黒川啓太はスーツのポケットから丁寧に折り畳まれた書類を取り出した。「これが黒川家の南アメリカでの配置図です。」

浅野武樹はそれを受け取ったが、少し疑問に思った。「黒川家の南アメリカの情報網は、すべて千恵子さんに任せたのではないですか?」

黒川啓太の表情は深い意味を含んでおり、声からは感情が読み取れなかった。

「確かに任せはしましたが、全てではありません。あの地域は彼女が想像している以上に混乱しています。特にこの場所は…」

中年の男は浅野武樹が地図を開くのを見て、手で重要なポイントを指し示した。

「…戦区状態が日常となっています。彼女にそのような場所に足を踏み入れさせるわけにはいきません。」

浅野武樹は注意深く見て、黒川家の南アメリカでの影響力に驚嘆した。

彼は深く追求せず、書類と地図を再び折り畳んでポケットにしまった。

顔を上げると、目の中の驚きと賞賛は消え、代わりに計画的な表情となっていた。

「黒川さん、あなたはビジネスマンです。私もそうです。このような良い取引を、何の見返りもなしにするはずがありません。」

黒川啓太の顔に感心の色が浮かび、声には喜びが混じっていた。

「その通りです。もちろん私にも条件があります。あなたが同意すれば、これらは…」黒川啓太は先ほど地図を置いていたテーブルの場所を指さした。

「…すべてあなたのものとなります。」

浅野武樹の瞳孔が引き締まった。これは断れない誘惑だった。

それらの工場とサプライチェーン、さらに訓練された傭兵たち、黒川啓太が言及したリソースの価値は計り知れないものだった。

浅野武樹は心の動揺を抑え、冷静に口を開いた。「おっしゃってください。」

黒川啓太の表情は断固としており、交渉の余地がないようだった。

「千恵子をあの土地に近づけないでください。」

浅野武樹は無意識にうなずいた。彼も同じ願いを持っていた。