浅野武樹は従順に頷いて、黒川啓太の後に続いたが、その足取りは少し硬かった。
小山千恵子の前を通り過ぎる時、彼は軽く頭を下げ、淡く微笑んだが、その目には心配の色が浮かんでいた。
もし黒川啓太が過去のことを問い詰めてきたら、彼には弁解の余地がなく、どんな謝罪や約束も空虚に思えるだろう…
男が心配事で頭がいっぱいのような様子で、足元の階段さえ見えていないようだったので、小山千恵子は思わず笑い、彼の手を取り、もう一方の手で優しく男の肩の雪を払った。
「医者に会ってから、すぐに会いに行くわ」
「うん」浅野武樹は返事をし、心が少し落ち着いた。
小山千恵子は二人の姿が石畳の道の先で消えるのを見送り、軽くため息をつくと、笑顔の山田おばさんについて医者に会いに行った。
父が浅野武樹と何を話すのか、彼女には見当もつかなかった。