浅野武樹は小山千恵子の肩に置いた手をきつく握りしめ、何かに苦悩しているようだった。
実際、彼には他の選択肢がなかった。
もし自分の存在が小山千恵子の健康に影響を与えるなら、彼には彼女のそばを離れる選択肢しかなかった。
これも自分自身が招いた報いだった。
浅野武樹はかすかにため息をつき、表情を引き締めて口を開き、厳かに約束した。
「わかりました。定期的に彼女を検査に連れてきます」
小山千恵子も膝の上で握り合わせた両手をきつく握りしめた。
浅野武樹が記憶を取り戻し、子供たちも徐々に打ち解けてきたことで、彼女は自分の不安が自然と癒えたと思っていた。
やっと勇気を出して決心し、浅野武樹ともっと近づこうとした矢先、体の本能が彼女に警告していた。
忘れたのか、この男があなたにもたらしたものを。
幸福と痛みは、シーソーの両端のようなもので、どちらも消えることはない。
薬をもらい、医者が去った後、小山千恵子は立ち上がり、浅野武樹はコートを持ってきて彼女に着せた。
「これからどこへ行く?」
小山千恵子は目の前の何事もないかのような男を見つめた。彼はいつもと変わらない様子で彼女にウールのマフラーを巻いていた。
彼女は目を伏せ、少し考えて言った。「中腹デザインに行かなきゃ」
浅野武樹も特に何も聞かず、うなずいて小声で答えた。「送るよ」
車は山腹を回って馴染みの花園の小道に着いた。小山千恵子はしばし恍惚とした。
浅野グループのあのショー以来、彼女はここに一度も戻ってこなかった。
白くシンプルで上品な建物を見たとき、まるで別世界のように感じた。
黒い控えめなセダンが玄関の雨よけの下に停まり、小山千恵子はシートベルトを外して車を降りたが、浅野武樹が動かないのに気づいた。
男性は助手席の窓を下げ、身を乗り出して、淡々と微笑んだ。
「用事を済ませて。終わったら連絡してくれれば迎えに来る」
小山千恵子は口を開きかけ、断ろうとしたが、言葉が出てこなかった。
浅野武樹はただ安心させるように微笑み、姿勢を正し、彼女が去るのを見届けてから発つつもりだった。
透明の自動ドアの向こうに背の高いシルエットが現れ、白いスーツを着た男がゆっくりと出てきた。
「師妹、ここがあることを思い出したのか?」