小山千恵子は全身の力が抜け、柔らかいベッドの背もたれに寄りかかった。
夢で良かった。
「大丈夫よ」
口を開くと、小山千恵子は自分でも驚いた。
彼女の声はとても嗄れていて、大丈夫そうには聞こえなかった。
ドアの外の男性の声は少し焦っていた。
「悪夢を見たの?怖がらないで、僕はすぐ隣にいるから」
小山千恵子はハッとした。
隣といえば、あの狭い家政婦の部屋ではないか…
彼女の心は柔らかくなり、小さな声で言った。「鍵はかかってないわ」
浅野武樹は大赦を得たかのように、ドアを押し開けた。
小山千恵子は男性が入ってくるのを見て、その姿が夢の中の彼と重なり、ようやく安心し、太鼓のように鼓動していた心臓も次第に落ち着いた。
浅野武樹は多くを語らず、慎重にベッドの端に座り、手を伸ばして小山千恵子の額に触れた。
「よかった、熱はない。布団をしっかりかけて、温かい水を持ってくるよ」
小山千恵子は温かいマグカップを両手で持ち、顔を上げて彼を見た。
「隣で寝てたの?」
浅野武樹は軽く「うん」と答えた。「医者が夜中に目を覚ますかもしれないと言ったから、僕があそこにいれば、すぐに来られるから」
彼は小山千恵子と再び抱き合って眠る機会を望むことはできず、ただ隣で浅く眠るしかなかった。
浅野武樹は初めて、この森の別荘が大きすぎると感じた。
大きすぎて、彼女に近づく理由さえ見つけられないほどに。
小山千恵子は少し温かい水を飲み、胃の中が温まり、浅野武樹に清潔なタオルで額の冷や汗を拭かせた。
全体的に楽になり、疲れも襲ってきた。
「もう大丈夫だから、休みに戻って」
浅野武樹は答えず、小山千恵子を布団に包み、布団の端をしっかりと押し込み、小さな頭だけが外に出ているようにした。
彼は優しい目で笑ったが、口調はやや強引だった。
「ナイトライトをつけておくから、あなたが眠ったら僕は出ていくよ」
真夜中の脆さが勝り、小山千恵子は怠惰な猫のように、抵抗する意志を失った。
「いいわ、好きにして」
浅野武樹は小山千恵子のベッドの横にリクライニングチェアを引き寄せて座り、準備していたかのように、どこからか本を取り出し、静かにページをめくった。
小山千恵子は目を閉じ、耳には浅野武樹の穏やかな呼吸音と、時折めくられる紙の音が聞こえた。