街の東側にある高級住宅街は、広大な敷地に緑が豊かで、各邸宅のプライバシーは完璧に守られていた。
夜になると、街灯の明かりがかすかに見えるだけだった。
ここは最も厳重なセキュリティシステムを備え、横浜の有数な名家が集まる、まさに上流階級の住宅地だった。
山田進はシャワーを浴びてすっきりし、ベッドに横たわってようやく家に帰ってきた実感が湧いた。
今日は買い物に付き合わされ、女性の恐ろしさを身をもって体験した。
外からノックの音が聞こえ、返事する間もなくドアが開いた。
「お兄ちゃん、今日買い物のおまけでもらった香水はどこ?どこに置いたの?」可愛い妹が駆け込んできて、彼のスーツケースを開けて服を全部出したが、探しているものは見つからなかった。
「山田ゆう(やまだ ゆう)、もう十八歳なのに、部屋に入る時は許可を得るべきだろう?」山田進は不快に思ったが、相手は妹なので強く言えず、軽く注意するだけだった。
山田ゆうは全く耳に入れず、適当に「分かったわよ。お兄ちゃんに嫁さんができたら、もう二度と部屋には来ないから」と返した。
あちこち探しても見つからず、黒いネックレスの箱だけが目に入った。山田ゆうは「お兄ちゃん、私の香水はどこ?」と尋ねた。
確かにスーツケースに入れたはずなのに、なぜないのだろう?
山田進は冷ややかな目で、自分の荷物が散らかされているのを気にも留めずに妹を見ていた。
大丈夫、どうせ後でメイドが片付けてくれる。
「他の人にあげた」
今日は本当についていなかった。飛行機を降りたら妹に彼女のことがバレて、そのまま商店街で散々金を使わされ、望月あかりの家に戻っても温かい食事も食べられなかった。
思い出すだけで山田進は憂鬱になった。望月あかりも何を怒っているのか分からないが、帰ってきてから笑顔一つ見せていない。
夜になって学校に帰ると言い張り、もう十二時を過ぎているのに安否確認の電話一本もない。
あのブレスレットの件で誤解しているのだろうか?
でも、もう謝ったのに。
山田ゆうはスーツケースを隅々まで探しても香水は見つからず、代わりに今日デパートで買ったネックレスを見つけた。山田ゆうは目を見開いて、そのネックレスの箱を手に取り、驚きの表情を浮かべた。
「え、これって彼女に渡すつもりのヤツじゃないの?なんでまだここにあるの?渡してないの?」おかしいな、家の運転手が迎えに来た時、お兄ちゃんが家に入るのを確かに見たし、キッチンの明かりもついていたから、中に誰かいたはずなのに。
「おかしいわ、彼女と一緒にいるって言ってたのに、なんで家に帰ってきたの?」山田ゆうは考えれば考えるほどおかしいと思い、「まさか香水を間違えて、おまけの香水を渡して追い出されたの?」と推測した。
山田ゆうは首を振り、間違ったプレゼントを渡した彼氏が彼女に追い出される場面を想像した。今、お兄ちゃんが家にいることから、自分の推測がますます確信に変わった。
追い出される?山田進は冷笑した。望月あかりは性格が優しすぎて、この数年間きつい言葉一つ言ったことがない。むしろ彼女を追い出すのは自分の方かもしれない。
それに、彼女はこのブランドすら知らないのに、どうしてその香水がおまけだと分かるだろうか。
「渡したよ」
「はぁ...お兄ちゃん、それってすごく最低よ。貧乏なふりして三年も女の子に養ってもらって、今日は誕生日なのに間違ったものを渡すなんて。私だったら即効で追い出してるわよ...」山田ゆうは嘆息した。今日たまたまお兄ちゃんの携帯を見なければ、お兄ちゃんが大学時代から彼女がいて、貧乏なふりをして彼女を騙していたなんて知らなかった。
お兄ちゃんは欲を持たない人だと思っていたし、父さん母さんみたいに一から始めようとしているのかと思っていた。
家の事情は良好だから、お兄ちゃんが相手の下心を警戒して身分を隠して付き合うのは理解できる。
でも、もう三年も経つのに、まだ泥棒でも警戒するように相手を疑うのは、さすがに言い過ぎだ。
しかも、この彼女のことをお兄ちゃんはすごく大切にしているのに、なぜかお坊ちゃんのような意地を張っている。
ほら見て、フランスから誕生日のために帰ってきたのに、相手に気付かれないように午後の便を選び、何も買ってこなかった。
結局、私が見つけて無理やりデパートに連れて行って、プレゼントを買わせたんだから。
もし私の彼氏がフランスに行って、何も持って帰ってこなかったら、絶対に別れてやる!
お兄ちゃんはどうしてこんなに鈍感なの?ロードサイドのブティックで適当にヘアゴムを買って済ませようとするなんて。
山田ゆうは首を振った。お兄ちゃんの恋愛がこんな状態になってしまって、一体何の意味があるのだろう。好きじゃないなら、はっきり別れればいいのに。なぜこうしてお互いを引きずり合うのか。
「もしお前の彼氏がそんなことしたら、ぶん殴って顔面変形させてやるからな。親でも誰だか分かんねーくらいに」
妹が誰かに騙されるところを想像しただけで、山田進は歯ぎしりするほど腹が立った。
「じゃあ、なんでお兄ちゃんは彼女をそんな風に騙すの?彼女だって女の子でしょう?何年も一緒に苦労してきたのに」山田ゆうには全く理解できなかった。お兄ちゃんはこんなケチな人じゃないはずなのに、なぜこんなクズ男のようなことをするのだろう?
「大人の話に子どもが口出すんじゃない。今日お前の欲しいもんはちゃんと買ってやったろ?親の前で変なこと言ったら……カード止めるぞ?」
山田進は反論して脅したが、最後は我慢して山田ゆうを部屋から追い出した。
寝室のフロアランプが冷たい光を放ち、床には開いた黒いスーツケース、ベッドには山田ゆうが出した服が散らばっていた。
これらの服は、フランスに行く前に望月あかりが詰めてくれたものだった。
今日帰国したのに、彼女はいつもと違って、服をクローゼットに戻さず、汚れた服だけを洗濯に出した。
残りの清潔な服は、きちんとスーツケースに戻された。
服を家に持ち帰ったら、今度は妹に散らかされてしまった。
ネックレスの箱が書斎の机の上に置かれていて、山田進は見れば見るほど苛立ち、手で払い落とした。
心の中で説明のつかない焦りを感じ、車のキーを取ってドライブに出かけた。
奴らに何が分かる?何も分かっていない!
...
望月あかりは良く眠れた。不眠もなく、夢も見なかった。
朝九時に目覚め、十時から授業があった。
昼に望月あかりは若葉らんと田中かなたから誕生日プレゼントを受け取った。スキンケアセットと新しいパーカーだった。
昨日は早めに出かけていて寮にいなかったので、今日やっと彼女たちからプレゼントをもらった。高価なものではないが望月あかりにとってはとても実用的で、とても気に入った。
午後は授業がなく、望月あかりはアトリエで課題を描いていた。
一日中、彼女の携帯は静かで、山田進からの電話はなく、彼女も山田進を探さなかった。
むしろ彼のことを思い出すこともなく、昨日のことはまるで存在しなかったかのようだった。
以前なら、彼女が絵を描いている時に電話に出られないと、授業が終わるとすぐにアトリエまで来て、彼女の安全を確認していたのに。
でも今は、一晩一日が過ぎても、チャットはずっとシーン。アイコンも通知も、何も来ない
机の上の香水の箱が、ぽつんと元の場所に置かれたまま、山田進の心変わりと無関心を物語っているようだった。
夜、四人で学食で食事をした。しずくは左右を見比べながら、学食の料理は味が薄いとか、スペアリブに肉がついていないとか文句を言った。
明日ショッピングモールに行って、おいしいものを食べようと提案した。
普段なら、女の子たちの約束に望月あかりはアルバイトのために欠席していたが、今日は机の上の香水を見て、初めて明日一緒に行くことに同意した。
ショッピングモールにはめったに行かない。父が再婚した後、継母は最初彼女に優しく、プリンセスドレスも買ってくれた。
しかし継弟が大きくなるにつれ、継母は家が狭いと言い、彼女は祖母の家に送られた。
祖母の家は小さな町の村にあり、ショッピングモールはなく市場だけだった。絵を習い始めてからは、全ての出費は絵の勉強に使い、市場でも見るだけで買わなかった。
彼女の唯一の長所は、現実を見極められることだけだった。自分の分を知っていて、決して空想的な夢は見なかった。
買えないものは、買えないのだ。
彼女は世間知らずだが、バカではない。彼氏が出張から帰国して、女の子と買い物に行くのがどういう意味なのか分かっていた。
三年間付き合った彼氏は、最初の三年は借金返済があり、今年の初めにやっと返済が終わったが、一度もショッピングモールに連れて行ってくれなかった。
彼が社会人になってから、突然彼女との間に隔たりができた。
あるいは、自分が彼にふさわしくないと感じ始めたのかもしれない。
結局、外の世界は広く、有能で収入のある女性は数え切れないほどいる。山田進の条件なら、彼女より優秀な女性を一人や二人引き付けるのは不思議ではない。
全ての別れには予兆がある。彼の徐々に忙しくなること、彼女が彼の歩みについていけないこと、望月あかりは自分を騙して無視することはできなかった。
冷静になって考えるべきだ。山田進のために尊厳を捨てて執着する価値があるのかどうか。
期限を設けよう。このネクタイを作り上げて彼に渡すまでに。山田進が本当に心変わりしたのかを確かめ、彼女自身にも心の準備をする時間を与えよう。
少なくともこの関係が終わる前に、失恋のショックを和らげ、ライバルが自分より優れていることを認められるように。
今は、山田進が失望させるようなことをしないことだけを願う。例えば、両方を手に入れようとして、両方に嘘をつくようなことを。
望月あかりは、自分が最初の三年間目が見えていなかったわけではなく、クズ男に出会ってしまったわけではないと信じたかった。