山田進と望月あかりは二階に上がった。中は照明が暗めで、かろうじて人々の顔が見える程度だった。
望月あかりを含めて、中には女性が三人、残りは全て男性だった。
「おや、進兄さんがついに奥さんを連れてきてくれたんだね」入り口に入るなり、茶目っ気のある声が冗談めかして言った。
山田進は彼女の手を握り、奥へと案内しながら言った。「今の声は木村平助だ。俺より半年年下だから、兄さんと呼んでる。ちょっとふざけた性格だから、言うことは気にしないで」
「そうそう、奥さん。僕は軽い性格なもんで、もし失礼なことを言ったら、大人の対応で許してくださいね」木村平助は先に友好的な態度を示した。彼は今になって分かった。さっきまで進兄さんが下を見ていたのは誰を見ていたのかを。
あの時この子が上がってこなかったことだけでも、今「奥さん」と呼ばれるに相応しい存在だと。
望月あかりは頷いて挨拶を返し、山田進は紹介を続けた。「隣は若葉いわおで、うちの会社のアートディレクターだ。その隣は彼の婚約者の森結衣で、同じく会社の社員だ」
「こんにちは」森結衣は望月あかりに微笑みかけた。表面上は親しみやすく見えたが、その目には隠しきれない打算が潜んでいた。
若葉いわおの婚約者――望月あかりは覚えていた。山田家の両親の結婚記念日の時、彼女は若葉加奈子の前で自分のことを完全に売り渡してしまった。
今考えると、若葉加奈子がその後微妙な態度を取るようになったのは、おそらく彼女のおかげだろう。
それに若葉加奈子のルームメイトも、最近学校で威張り散らしているらしく、鼻で笑うような態度を取っているという。
望月あかりは首を振った。世間知らずの若い女の子が、森結衣にちやほやされて、調子に乗りすぎたのだ。
他にも何人かいて、山田進は簡単に紹介し、最後に望月あかりの番になった。山田進は友人たちに向かって言った。「こちらは私の彼女の望月あかりです」
若葉いわおは察していた。望月あかりの将来の富と名声は、もう決まったも同然だと。
一方、森結衣の心の中はさらに多くの打算が渦巻いていた。若葉加奈子を取り込むために、どれだけお世辞を言ったか分からないのに、今やこの望月あかりが正妃様の座を確実なものにしてしまい、これまでの努力が全て水の泡になってしまった!