清泉文庫館。
望月あかりが入ってすぐ、山田進が戻ってきたことがわかった。チャイナドレスは元の箱に収められ、破れた部分は修復されていなかった。
望月あかりは山田進に電話をかけようと思ったが、考え直して諦め、チャイナドレスを持ち去った。
林元紀は彼女を芸大に連れて行った。夏休み中で、多くの学生は帰省していて、キャンパスは静かだった。
二人は芸術棟の3階まで来て、林元紀はある教室のドアをノックした。
中からガタガタと音がして、半ズボン姿の男子学生が寝癖だらけの頭で出てきた。
望月あかりと林元紀を見て、その男子は寝癖を直そうと頭を掻きながら、笑顔で尋ねた。「林先生!今日はどうしてここに?」
「藤原、相変わらず自由奔放だな」林元紀は笑いながら挨拶し、望月あかりと一緒に中に入るよう促した。
ここは画室を改造したアトリエで、マネキンや布地、ミシンなど、必要な物が全て揃っていた。
「彼は私のアトリエの第一期生で、藤原信という」と林元紀は望月あかりに紹介した。
望月あかりが頷くと、藤原は引き出しを探り、何とか使い捨ての紙コップを見つけて水を注ぎ、林元紀と望月あかりにアトリエを案内させながら、自分は石鹸を持って出て行った。
しばらくして戻ってきた時には、きちんとした身なりの青年になっていた。どうやら共同洗面所で身支度を整えてきたようだ。
「林先生、今日はどうしてわざわざ?」藤原は遠回しな言い方をせず、水を注いでから直接尋ねた。普段はLINEでのやり取りが多く、今日直接来たということは重要な用件があるはずだ。
「実は頼みたい仕事があってね。望月さん、見せてあげて」林元紀が用件を告げると、望月あかりはチャイナドレスを藤原に見せた。
藤原は非常に繊細な本物の絹だと気付き、すぐに手を清潔にし、白い手袋をはめてからマネキンにチャイナドレスを着せて観察した。
この様子を見て、望月あかりは申し訳なく思った。彼女もこのように注意深く扱っていれば、このような失敗は起こさなかったはずだ。
「この色合いは素晴らしいですね。それにこの仕立て、数十年のベテラン職人の手作りに違いない」藤原は拡大鏡を手に、チャイナドレスの内外を丁寧に観察した。
「でも、この絹糸の垂れ具合が長すぎて、手入れが難しそうですね」