二人が階段を上がり、望月あかりと山田進の二人だけが残された。
「あかり、彼がなぜここにいるの?」山田進は尋ねた。林元紀がなぜここにいるのか、二人の関係を聞きたかった。無意識のうちに望月あかりに近づこうとしたが、彼女は後ずさりした。
小さな一歩が、距離を生んだ。
「あかり……」山田進は辛かった。謝罪の言葉は全て、林元紀の存在によって封じ込められ、望月あかりを問い詰めることさえできなかった。
山田進は軽く咳をし、煙を吐き出してから、やっとの思いで言った。「この数日出張していて、帰ってきてあなたの家に行ったら、引っ越していたことを知った。LINEを送っても返信がなく、電話もつながらなくて……体が弱いあなたのことが心配だった。」
「私なんて貧乏学生、心配することなんてないわ。」望月あかりは笑った。彼女の低血糖で公共の場で倒れたことは一度や二度ではなかった。林元紀に出会った時以外は、基本的に自分で片隅で休んで、気を失っても目が覚めるまで待って、そのまま立ち去っていた。病院に行く費用も節約できた。
「電話は前に売ってしまって、LINEも受け取れないの。」望月あかりは言った。彼女は彼に意地悪をしているわけではないと誤解されたくなかった。
彼女は本当に彼とすっぱりと縁を切りたかった。怒っているわけではなかった。
「売ったの?大丈夫、新しいのを買ってあげる。」山田進は薄氷を踏むような慎重さで、なぜ売ったのかを聞く勇気もなかった。恥ずかしい答えを聞くのが怖かったのだ。
「必要ないわ。今日、望月紀夫が新しいのを買ってくれたから。」望月あかりは冷たく笑い、これ以上話を続けたくなかった。
「古いものが去れば新しいものが来る。山田坊ちゃま、もう遅いから、お帰りになったら?」
帰って。みんな過去にこだわらないで、新しいものはいつか必ず来るから。
彼は出張から帰ってきたばかりのようで、スーツはしわくちゃで、近づくと強い煙草の匂いがした。目は充血し、無精ひげが伸び放題だった。
山田進は首を振り、突然前に出て望月あかりの手を掴み、彼女を抱きしめた。
「帰らない!あなたがここにいるなら、どこにも行きたくない!あかり、今までは全て私が悪かった。もう一度やり直せないか?」彼はフランスでの日々、毎日が苦しかった。