横浜市には夜がない。昼間は太陽の光、夜は街灯の光だ。
望月あかりは助手席に座って道を指示し、山田進は言われた通りに運転する。東から西へ、南から北へ、目的地もなく、ただ気の向くままに走っていた。
二人が出会ったコンビニから、彼女がアルバイトをしていたバーまで。
望月あかりは一言も発さず、山田進は不安になり、彼女が何をしたいのか分からなかった。
「あの...あかり、お腹すいてない?何か食べたい?海鮮料理でもどう?」山田進が提案した。この季節は海鮮が一番美味しい時期だ。以前、彼女は海鮮が好きだったが、お金がなくて冷凍エビを少し買って満足するしかなかった。
望月あかりは首を振り、高級デパートを指差した。
二人は車を地下駐車場に停め、エレベーターで2階へ向かった。
2階は紳士服フロアで、世界中の有名ブランドが集まっていた。
警備員が高級ブランドの周りを巡回し、入店する人数を制限し、常に騒動が起きないよう監視していた。
紳士服は婦人服と違い、デザインは地味に見えるが、小さな一着の価格が彼女の一年分の生活費に相当する。
山田進はデパートに入ると、緊張した表情が徐々に和らいでいった。
山田ゆうは怒ると物を買いまくる。望月あかりも女の子だから、山田ゆうと似たような性格のはずだ。
やはり彼女は自分に怒っているだけで、ここで怒りを晴らしたいのだろう。
自分は本当にバカだ。こんな手があったのに、望月あかりが言い出すのを待ってからここに連れてくるなんて。
女の子が好きなものなのに、どうして思いつかなかったんだろう?
大丈夫、彼女に「発散」させて、自分はただカードを切るだけで文句は言わない。先日の不愉快な出来事も全て過ぎ去るだろう。
山田進は心に確信を持ち、望月あかりを見る目も寛容になった。
望月あかりは山田進を連れてブランドを巡り、あるショップで立ち止まった。名前と電話番号を告げると、店員は下がり、しばらくしてネクタイを持ってきた。
深いブルーの地色に、交差するストライプが刺繍されている。
望月あかりはネクタイを山田進に見せ、意見を求めた。
「きれい?」
「僕へのプレゼント?」山田進は驚きながら喜び、ちょうど今日はスーツを着ていて、着替えていなかったので、元々していたネクタイを外し、首を伸ばして甘えるように「結んでくれる?」と言った。