第64章「策略」

本全体が普通ではないほど重く、望月あかりは一人で持ち帰るのは無理だと思った。ここは高級住宅街でタクシーもないため、山田進の車に乗るしかなかった。

山田進は車内灯をつけ、望月あかりの本を後部座席に置こうとした。

望月あかりは本を手放さず、助手席で開いた。中の図版は高画質で、ひび割れまでくっきりと写っており、現代の権威ある美術評論家による詳細な解説付きだった。

この本は専門的すぎて、一般人には興味が持てないだろう。

「あかり、運転中は本を読まないで。目が回るよ」山田進は望月あかりが本を手放さない様子を嬉しく思いながら、優しく注意した。

望月あかりは彼の言葉を無視し、気に入った本を熱心に読み続けた。

山田進はゆっくりと車を走らせ、芸大西門に着くと、人気のない場所に停車し、彼女の邪魔をしなかった。

病院を出てから山田ゆうから電話があり、若葉加奈子が本を渡すことを承諾したと聞いた。だから今日は本を届けるという口実で彼女に会いに来たのだ。

望月あかりは夢中になっていたが、長時間座っていたため腰が痛く肩も凝り、伸びをすると、すでに学校の門前に着いていることに気づいた。

本を置こうと体を起こすと、山田進は彼女が帰ろうとするのを見て急いで言った。「もう12時過ぎだから寮は閉まってるよ。あかり、今日はうちに来ない?書斎にマッサージチェアがあるから、車の中より快適に読めるよ」

彼は意図的に時間を引き延ばし、邪魔をせずにいた。飲み物を取り出して望月あかりの口元に差し出し、機嫌を取るように言った。「さっきから一口も飲んでないけど、喉渇いてない?お腹すいてない?ケーキ食べる?それとも他に食べたいものある?」

望月あかりは無反応で断った。「ありがとう、結構です。私は借りている部屋に帰ります。この本は持って帰ってください。山田ゆうには言わないでください」

本を閉じて後部座席に戻した。車の中で本を読んでいたのは、自分で読み終えてから山田進に持ち帰ってもらうためだった。彼女は山田ゆうのような女の子が泣き出すという特技は理解できなかったが、関わりたくないと思った。

車から降りると、山田進も後を追ってきた。

「あかり、そんなこと言わないで。ゆうゆうが君にあげたんだから、君のものだよ。部屋まで運んであげるよ」