市警察署の刑事課で、望月あかりが入ると、女性警察官が彼女を出迎え、直接調停室へと案内した。
木村久仁子は煙草を指に挟んで片隅に座り、隣には年配に見える警察官が一人いた。
「金田警部?あなたもいらっしゃるんですか?」望月あかりは入室するなり、二人の身分を一目で認識した。
一人は先週お見合いをした木村久仁子で、もう一人は望月紀夫が叔父にひどく殴られた事件で助けてくれた金田警部だった。
金田警部は頷いて挨拶を返し、向かい側に座るよう促した。
「何があったんですか?弟はいったいどうしたんですか?」望月あかりは胸に不吉な予感を抱きながら、二人の向かいに座り、焦りながら金田警部に尋ねた。金田警部が来ているということは良いことではないはずだ。
二人は目を合わせ、女性警察官に退室を促した。女性警察官は望月あかりに水を注いで退室し、調停室には望月あかりと二人の警察官だけが残った。
木村久仁子は手の煙草を最後に一服し、灰皿で消すと、鼻から煙を二筋吐き出した。部屋の中は何とも言えない重苦しい空気に包まれた。
「望月さん、私たちは知り合いですから、紹介は不要ですね。こちらは金田警部で、あなたもご存知のはずです」と木村久仁子は言った。
望月あかりは頷いた。
「木村警部、構いません。どうぞ話してください」
「最後に望月紀夫君に会ったのはいつですか?」木村久仁子は頷き、机の上の書類を片付けながら尋ねた。
「先週の金曜日の夜、彼がルームメイトと家で食事をした時です。それ以降は会っていません」望月あかりは正直に答えた。
「昨夜はどこにいましたか?」
「学校の寮にいました」
「一人で?」
「ルームメイトと一緒でした」
木村久仁子は頷き、隣の金田警部を見た。金田警部は鼻筋を揉みながら言った。「望月さん、弟さんが家を売ったことについてご存知でしたか?」
「はい、高校生のいる家族に売って、一億円で売れました」望月あかりは不思議そうだった。家は売買が成立し、所有権移転も済んでいるのに、なぜ望月紀夫に関係があるのだろうか。