第73章・変故

ドアの外からノックの音が聞こえ、若葉いわおが書類を持って入ってきた。

「山田社長、今週の火曜日にフランスの方で……」

透明なグラスが飛んできて、若葉いわおは素早く反応してドアを閉めて避けた。オフィスのドアが大きな音を立て、木村平助が中から出てきて、若葉いわおを引っ張って戻りながら、秘書とアシスタントに山田進を当分の間邪魔しないよう指示した。

若葉いわおは訳が分からなかったが、木村平助は理由を話したくなかった。彼が以前山田進に出した悪い提案が裏目に出て、望月あかりが今では強情を張って、山田進と決別する決意を固めてしまったのだ。

彼の推測では、もし山田進が若葉加奈子と学校であんなことをせず、それを望月あかりに見られなければ、望月あかりもここまで心を硬くしなかっただろう。

「来週末に結婚するんだろう?結婚式の準備に専念しなさい。山田社長は具合が悪いから邪魔しない方がいい」木村平助は若葉いわおに山田進に近づかないよう忠告した。こちらは喜び勇んで結婚しようとしているのに、山田進の方は彼のせいで彼女が他人と見合いをすることになってしまった。今の山田進が彼を見て喜ぶはずがない。噛み殺さないだけでも慈悲深いと言えるだろう。

若葉いわおは状況が理解できなかったが、木村平助は彼の肩を叩いて、自重するようにと言った。

……

木村久仁子は望月あかりを授業後に呼び出して会った。彼は太い眉と大きな目を持ち、目は輝いていて、警察官の制服を着て正義感あふれる表情をしており、典型的な硬派な男性だった。

林お母さんは、これが彼女の見合い相手だと知って喜色満面となり、林元紀を連れて望月あかりを先に帰らせ、母子二人と宮崎朝美で食事に出かけた。

林元紀はとても気まずそうだったが、望月あかりはむしろ心が落ち着いた気がした。

望月あかりは木村久仁子と一緒に食事をし、木村久仁子は率直な性格で、木村国吉との関係を詳しく説明し、さらに深い付き合いを望む意思を表明した。

望月あかりも遠慮せずに、今日は止むを得ない事情があったと率直に言った。

木村久仁子は理解を示し、二人とも気取った人間ではなかったので、形式的に一緒に食事をしただけで、長くは食べず、まだ日が暮れないうちに望月あかりは寮に戻った。