夜が更けて、控えめなベンツがホテルの玄関に停まると、ドアマンが車のドアを開け、山田進が先に降り、反対側に回って望月あかりのドアを開けた。
山田進は控えめな黒の中山服を着て、若さの浮つきを洗い流し、落ち着きと威厳を漂わせていた。お気に入りの腕時計さえ、極めて普通のものに変えていた。
望月あかりもシンプルなワンピースに着替え、レトロなデザインが彼女を上品で優雅に見せていた。アクセサリーは一切身につけず、メイクも控えめで、かすかな印象を与えるだけだった。
山田進について入ると、このホテルは横浜市の高級ホテルのような派手な豪華さはなく、立地も目立たない場所にあり、望月あかりは横浜市にこんな場所があることを知らなかった。
ホテルの内装は民国時代の豪邸を思わせ、純木材で壁を装飾し、翡翠の階段が敷かれ、レザーのソファーのどこもが洗練された控えめさを醸し出していた。
螺旋階段を上って2階へ、レザーで装飾された宴会場のドアが開くと、望月あかりは異なる上流社会を目にした。
艶やかな社交界の花もなく、派手なラグジュアリーブランドもない。
そこにいたのは成熟した顔立ちの人々ばかりで、若い世代は従順で年長者は慈愛に満ち、ほとんどが質素な様子で、互いに親しげに挨拶を交わし会話を楽しんでいた。傍らの女性たちも皆、伴侶と相応しい年齢で、富貴で気高かった。
気品の中に潜む万人を見下すような態度、手中に握られた生殺与奪の権。
山田進は彼女の手を取り、宴会の主催者の前まで案内した。
「土井おじさま、こんばんは」
その土井おじさまは年配で、振り向いて山田進を見ると、金縁眼鏡の奥の顔に喜びが溢れた。
「これは山田真彦の息子かね?数年会わないうちに、こんなに立派になって」
山田進は謙虚に、頭を下げて褒め言葉を返した。「いえいえ、土井おじさまのお褒めの言葉は過分です。立派さと言えば土井くんには及びません。父がいつも土井くんの優秀さを話していて、今日は特に土井くんから学ばせていただきたいと。この生意気な私も土井おじさまのご指導なしでは人並みにもなれないと」
山田進は後輩らしい態度で、望月あかりを前に引き出して言った。「土井おじさま、こちらが私の婚約者の望月あかりです。今日は特にご紹介させていただきたくて。あかり、おじさまにご挨拶を」