第79章・紆余曲折

密室の中で、望月あかりは山田進の呼吸から漂う微かな酒の香りを感じ取った。きっと先ほどの商談で少し飲んだのだろう。

山田進はシートのマッサージ機能をオンにし、斜めに寄りかかって目を閉じながら楽しんでいた。「今日のことは秘密にしておいてくれ。誰かをおじさまと呼んだことは、自分だけが知っていればいい。他言は無用だ」

望月あかりは頷いた。中にいた時から、何人かの身分が並々ならぬものだと感じていた。例えば、彼らがよく誰々夫人と呼び、会話の中でも「この方」「あの方」という言い方で本名を出さず、部外者には誰のことか分からないようにしていた。

木村平助の姉の木村清香でさえ、そこでは若輩者扱いだった。つまり、中にいた人物たちは木村家よりも強い背景を持っているということだ。山田進が以前言っていたように、木村平助でさえ彼らには一目置かなければならないのだ。

「あの土井おじさまは...信用できるのでしょうか?」望月あかりはまだ不安だった。幼い頃から貧しく、得たものは全て自分の努力で手に入れてきた。「おじさま」「おばさま」と呼ぶだけでこれほど簡単に物事を手に入れられるような経験は一度もなかった。

山田進は目を閉じて休んでいたが、彼女の心配を煩わしく思うこともなく、手元のタブレットでアプリを開いた。そこには時事ニュースが流れており、遠く離れた場所にいる指導者が視察を行い、重要な指示を出している様子が映し出されていた。

望月あかりには、このニュースが自分とどう関係があるのか分からなかった。

山田進はニュースの見出しを指差した。望月あかりは先頭に立つ指導者の名前を見た。

土井くん。

「まだ退職していないんだ」山田進は低い声で言った。「土井おじさま」のことを指して。

...

清泉文庫館の主寝室は、三面が床から天井までの窓で、採光は抜群だった。

夜は防音も完璧だったが、望月あかりはぐっすりと眠れなかった。目を閉じると、望月紀夫が無力に頭を抱えて泣いている姿が浮かんでくる。

彼女はゆっくりと目を開けた。携帯の画面には午前3時を示していた。

部屋はそれほど暗くなく、壁際のフロアランプが柔らかな暖かい光を放ち、アロマの心地よい香りが睡眠の質を高めていた。

望月あかりは横を向いた。山田進が隣で熟睡していた。