第92章・謝罪

婚約の二週間前に入籍した山田進は、この数日間ご機嫌だった。

望月あかりが旅行を断固として拒否しなければ、とっくに彼女を連れて新婚旅行に行っていただろう。仕事なんてする気にもならなかっただろう。

対照的なのが若葉いわおと森結衣だった。森結衣の一件は大騒ぎになっていた。二人はまだ婚約しただけで、山田家は望月あかりを嫁に迎えないだろうと期待していたのだ。

しかし今朝、社長秘書室から社員に結婚祝いの飴が配られ、会社中が知ることになった。あの日、二人は本当に入籍していたのだ。

これで、森結衣が若奥様の機嫌を損ねた件が確定的となった。人は権力に従うもので、以前は表向き森結衣に優しく接していた人々も、今では表面的な付き合いすら避けるようになった。森結衣を露骨に孤立させ、彼女の夫である若葉いわおは、この数日間、妻の不平不満を聞かされ続けていた。

城門失火殃及池魚のごとく、若葉いわおもこの数日間、理不尽な疎外を受け続けていた。何度も背後で陰口を叩かれるのを耳にした。皮肉めいた口調で良い奥さんをもらったと褒められたり、妻の気が強すぎて巻き添えを食らっていると同情されたりした。

とにかく、山田進の婚約式に招待されなかったことが一番のショックだった。

木村平助は友人のSNSで山田進の招待状を披露していた。そこには全家族を招待すると書かれていた。彼は山田進の幼なじみだったのに、婚約式には招待されなかった。

山田進が幼い頃、祖母一人では面倒を見きれず、両親が小さい頃から育ててきた。山田おかあさんは将来山田進が結婚する時は両親を招待すると約束していたのに、今回は招待されなかった。

彼だけでなく、もう一人の幼なじみも招待されなかった。どうやら山田進が何かに気付いたか、あるいは望月あかりの意向だったのだろう。

若葉いわおにはどちらでもよかった。山田進との亀裂を修復することが急務だった。

婚約式の前の金曜日、山田進からまだ何の動きもないのを見て、若葉いわおは自ら山田進を訪ねた。

ちょうどその時、山田進は望月あかりとビデオ通話中で、あかりにうんざりしていた。若葉いわおが入ってきたので、望月あかりは口実を設けて電話を切った。

山田進はまだ話し足りないのに中断されて、気分が悪かった。