第90章、婚姻届を出す

高級な別荘の静寂の中で、望月あかりは目を開いたまま、暗闇の中で思考が乱れていた。

かつて彼のことが好きだったが、その後嫌いになり、彼のような人間を嫌悪していた。しかし昨日以来、彼との親密な関係を再び受け入れられるようになっていた。

山田ゆうの一言は、山田進がしてきたすべてのことよりも彼女の心を動かした。

「もし明日、婚姻届を出しに行くって言ったら?」望月あかりは小さな声で言った。もし彼が寝ていて聞こえなかったら、山田家の方々に感動して一時的に判断を誤ったことにしよう。

隣で山田進は彼女をきつく抱きしめ、顔を彼女の首筋に埋めた。

「いいよ、君の言う通りにする。」

望月あかりは目を閉じた。混乱した思考は消え、彼女と山田進がそれぞれの檻から出て、一つの檻に合わさるイメージだけが残った。

彼のことは好きではない。結婚という形で飼いならされ、自分を救おうとして失敗し、抵抗を諦めた。

逃げられないなら、一緒に囚われの身になればいい。

……

翌日、山田ゆうは早めに学校へ行き、山田進と望月あかりは朝食を食べに降りてきた。ついでに父親に休暇を申し出て、望月あかりと婚姻届を出しに行くと伝えた。

山田家の両親はとても喜び、山田母さんは部屋に戻って祝儀袋を持ってきた。望月あかりは何度も断ったが、両親の熱意に負けて受け取るしかなかった。

車の中で、望月あかりは祝儀袋を開けると、中には10枚の千円札が入っていた。

一枚一枚、合計10枚。

「……?」望月あかりは不思議そうだった。

「母が今年、山で特別にお願いして手に入れたお守りのお金なんだ。あなたのために願をかけてもらったものだよ。」実際にはそうでもなく、その時母は彼が恋人がいることを知らなかった。ただ将来のために用意していただけで、特に望月あかりのためではなかった。

「家に帰ったら、ベッドの下に置いておいて。」山田進は望月あかりに祝儀袋をしまうように言った。このお金は使ってはいけないものだった。

望月あかりたちは先に彼女と望月紀夫が借りていた小さな部屋に戻って荷物を整理した。実際にはあまり整理するものはなかった。