第132章「ベビー」

山田進は木村平助とグラスを合わせたが、酒を飲まずにグラスを置いた。今夜、家に帰って望月あかりと望月紀夫を見かけたことを思い出すと、胸が苦しくなった。

木村平助が一杯飲むと、隣の妖艶な女性が酒瓶を取り上げて彼のグラスに注ぎ足した。彼は振り返ってテーブルの上のカードを彼女の襟元に滑り込ませた。女性は彼の悪戯を笑いながらも、目は山田進の方へ向けられていた。

横浜市の金持ちの若旦那の中で、目の前の山田様は際立った存在だった。

彼女は噂には聞いていたが、実物は初めて見た。確かに気品のある若旦那だった。

山田様は隣の木村様とは違っていた。木村様は派手で浮気性で、彼に付き合うには頭を低くして仕えなければならず、時々侮辱的な言葉も受けなければならなかった。

彼女はお金目当てとはいえ、時々心が傷ついた。