ホテルのこちら側で、成田まことは携帯を下ろし、顔を上げると望月あかりが外国人と話をしているのが見えた。彼らは一緒に望月あかりが壁に掛けた絵を鑑賞していた。
望月あかりも不思議に思った。先ほど藤原信から電話があり、フランスのレオグループ傘下のギャラリーの担当者が彼女がオークションに出した絵を見て、彼らの責任者が彼女の画風をとても気に入り、今後の協力について話し合うために人を派遣したとのことだった。
相手がこれほど急いでいるとは思わなかった。まさか大晦日の夜に会うとは。
そして会う場所となったこのホテルは、以前彼女が絵を描いていた場所だった。なんとも劇的な展開だ。
「望月さん、社長がお話したいとのことですが、よろしいでしょうか?」スーツを着た従業員が、ブルートゥースイヤホンを持って望月あかりに尋ねた。
望月あかりはギャラリー側の人間だと思い、すぐに頷いてイヤホンを付け、フランス語で挨拶した。「こんにちは、望月あかりです。」
「ふふふ……」イヤホンの向こうから低く愉快な笑い声が聞こえ、磁性のある男性の声は漫画に出てくる優雅な紳士のようで、心地よく、望月あかりへの暗示に満ちていた。同じくフランス語で挨拶を返した。「こんにちは、新年おめでとう。」
その言葉を聞いた瞬間、望月あかりは思わず近くで見張っている成田まことを見た。しかし相手は彼女の動揺に気付き、警戒しているようだったので、急いでガラス壁の方に向き直った。窓の外は明るく輝き、至る所に新年の祝賀装飾が施されていた。
馴染みのある声、インテリ悪役のような口調、斉藤玲人だ。
さすが彼らしい周到さで、先ほどブルートゥースイヤホンを渡した従業員は、フランス人たちの中に紛れ込んでいて、誰が誰だか全く区別がつかない。望月あかりは彼が手にしているビデオカメラを見た。表面上は会場の様子を記録しているように見えるが、実際は彼女を撮影しているのだろう。
「大晦日を一緒に過ごさないか?新年のプレゼントを用意したんだが、どうだ?」イヤホンの中で、斉藤玲人の方は非常に静かで、話し声に反響があった。「フランス語で話してくれ。あのボディーガードは理解できない。彼は英語しかわからないからね。」
彼女と連絡を取る前に、成田まことの情報はすでに調べ上げていたのだ。