ホテルに入ると、知り合いに出会った。と言っても、あまり親しくない赤川隆だった。
赤川隆は食事の約束があったようで、ちょうど山田進と望月あかりとすれ違った。この数日間、SNSで騒がれていたため、望月あかりが自分が思っていたような金持ちの令嬢ではないことを知っていたので、あまり親しげな態度は取れなかった。
「山田社長、山田夫人」赤川隆が挨拶すると、山田進はただ頷くだけで、目には赤川隆という人物は全く映っていないかのように、あかりの手を引いて歩き出した。
望月あかりも何も言わず、山田進について行った。
前回来た東屋とは違い、今回は中国風の住居で、食卓は中庭に設置され、周りには假山と流水が配され、中国風の建物も飾りではなく、生活に必要なものが全て揃っていた。
まるで古代にタイムスリップしたかのようで、紅木の衣装箪笥には着替えの寝間着や洗面用具まで用意されていた。
左側には民国時代風の浴室設備があり、右側は寝室で精巧な作りの踏み台付きベッドがあり、古風な雰囲気を醸し出していた。布団も中国風の絹製で、上には子供の絵が刺繍されていた。
中央の広間には八仙卓が完備され、このホテルは全くホテルらしさを感じさせなかった。
望月あかりは部屋の中を見て回り、外の間の掛け軸をしばらく眺めていた。横浜市のような一等地で、こんなに広大な敷地を使ったホテルがあるとは思いもよらなかった。
「気に入った?今日はここに泊まろうか?」山田進はあかりを抱き寄せながら、掛け軸に見入っている彼女に笑いかけた。「最近は中国風の別荘も多いけど、一つ買って引っ越すのはどう?」
彼女がこういうものを本当に好きなことを、彼は知っていた。
また、彼女が自分という人間には興味がなく、今は金だけが彼女の心を掴めるものだということも分かっていた。今の彼には、お金でしか彼女を引き止められなかった。
「そんな話じゃなくて、この字は有名な作家の作品みたいよ」望月あかりは彼から離れ、より近くでその掛け軸を見た。「みたい」と言ったのは、この有名な書道家の作品がホテルに飾られているとは信じられなかったからだ。
しかし近づいて見ると、それは確かに真作だった。