第172章「白髪」

山田進は卒業式を終えたが、あの絵を手に入れることはできなかった。

望月あかりの居場所を望月紀夫に尋ねようとしたが、逆に彼につかまれて殴られた。

「二度と俺の前に現れるな!見かけたら、その度に殴るぞ!」望月紀夫は歯ぎしりをしながら怒りを露わにした。姉は一言も言わずに離婚し、今も海外で姿を隠している。すべては彼のせいだ!全部彼のせいだ!

山田進は反撃せず、芸大を出た後も家に帰りたくなかった。両親が見たら心配するだろうし、息子は彼が近づくと泣き出してしまう。あれこれ考えた末、不思議と彼らが以前借りていた古いアパートまで来ていた。

あの頃、望月あかりは可愛らしい女の子で、頭の中は絵と彼のことだけだった。

山田進は足の怪我を押して、一歩一歩団地の中を歩いていった。通りすがりの人々は彼を避けて通った。

正面からやってきた老人が山田進を見つけ、彼を支えながら心配そうに声をかけた。「山田君じゃないか?どうしたんだい?事故にでもあったのかい?」

山田進はその老人を知っていた。以前借りていた部屋の大家さんだ。彼と望月あかりが清泉文庫館に引っ越した時、この部屋の契約を解約したのだった。

まさか、最後の思い出までも、自分で手放してしまうことになるとは。

大家さんは鍵束を腰に下げ、山田進を支えながら以前住んでいた建物へと向かった。歩きながら話を続けた。「ああ、望月あかりさんは今日卒業式だったんじゃないかい?めでたい日なのに、どうしてこんなことに?」

大家さんは独り言のように話し続け、山田進はただ付いていった。今はあの部屋が誰に貸されているのか、その人たちはどんな暮らしをしているのか、幸せなのだろうかと考えていた。

しかし、ドアの前まで来ると、山田進は中に入ろうとしなかった。

大家さんは事情を察し、腰から鍵束を取り出し、この部屋の鍵を探しながら言った。「鍵を持ってないのかい?普段は彼女が持ってたよな。今時の若い者の恋愛は、あっという間に終わってしまう。でも君たち二人は一番辛い時期を乗り越えてきたんだ。きっとずっと一緒にいられるさ。」

ドアを開けると、中は綺麗に保たれており、ほこりもあまりなく、家具や装飾品も二人が一緒に住んでいた頃と同じだった。

「これは...?」山田進は困惑した。