翌日、天気は晴れ渡っていた。
望月あかりはコーヒーの香りで目を覚まし、だらしなく伸びをした。昨夜、斉藤玲人が来ていたようだ。
起き上がって部屋着に着替え、階下に降りると、斉藤玲人がリビングでコーヒーを淹れていた。
手には分厚い書類の束を持ち、一枚一枚めくりながら、時々マーカーで印をつけていた。
望月あかりは感心した。敏腕弁護士もこうして日夜努力して成功を収めるのだ。楽して成功できる道などないのだ。
しかし、今の彼の真面目な様子を見ていると、彼女が近づくだけで、その書類は間違いなく無用の長物と化すだろう。
この点について、望月あかりは自信があった。
こっそり後ろに回り、彼の目を手で覆おうとすると、斉藤玲人は気付いていながらも、それを指摘しなかった。
「画家さん、まだそんな子供じみた遊びをするの?」
彼は彼女の手を握り、書類を脇に置くと、彼女を手前に引き寄せて抱きしめながら言った。「ますます子供っぽくなってきたね」
「あなたと比べたら、私はもともと若いもの」望月あかりは気にせず答えた。二人は七歳差で、望月あかりは今年二十九歳だが、斉藤玲人はもう三十六歳だった。
彼に子供っぽいと言われても、少しも違和感はなかった。
何気なく斉藤玲人の手元の資料を取ると、被告欄に見覚えのある名前があった——森結衣。
「彼女どうしたの?」望月あかりは尋ねた。森結衣がまた訴訟に巻き込まれたのだろうか。
斉藤玲人も森結衣を知っていたが、さして気にも留めず答えた。「住宅ローンの支払いを滞納して、銀行から訴えられた。強制執行の申し立てがあって暴れ出し、夫からのDVを理由に離婚を求めている。夫は彼女の代わりに支払ったローンの返還と、婚姻期間中の財産分与を要求している」
望月あかりはその経緯を大体理解できた。若葉いわおと森結衣が離婚した時、家は山田進の手によって森結衣のものになったが、住宅ローンが残っていて、贅沢な生活に慣れた森結衣には返済できなかった。そこで地方出身の新しい夫を見つけて、ローンの支払いを肩代わりしてもらったのだ。
しかし、若葉いわおのような優秀で言うことを聞く夫がどこにいるだろうか。
森結衣が相変わらず高慢ちきな態度なら、誰が耐えられるだろうか。時間が経てば必ず摩擦が生じ、DVも理解できないことではない。