どうして早く戻れるはずがない、現場検証のために連行されたら、罪は確定してしまう。
木村久仁子はずっとジープの天井を見つめながら、父親の言葉を思い出していた。最初に彼女と見合いした時から、彼の異母弟である木村平助が酒に誘い、はっきりと望月あかりとの関係を断つよう言ってきた。あの女は山田家が望んでいる人間だと。
しかし今、彼女は車の中で何もできずにいた。
きっと泣いているだろう、女が泣き出すと一番厄介だ。
パトカーが遠ざかるのを見届けてから、木村久仁子は階下に降り、自分の車に向かった。助手席の望月あかりが俯いてスマホを見ているのが目に入った。彼女の表情は穏やかで、泣いてはいなかった。
彼女は彼に気づくと、笑顔でお礼を言った。「ありがとう、木村警部」
……
「この事件は、山田家が特別に手を回したようだ。あの娘が息子と別れたことに関係しているんだろう。こうなると娘を屈服させようとしているんだろうが、ここまで来てもまだ動きがないのはおかしい」と木村久仁子の父は言い、続けて独り言のように呟いた。「もしかして山田真彦の息子がもう彼女を望んでいないのか?」