第19章 ひざまずけ!

鈴木之恵は彼の手を払いのけた。「触らないで、汚い!」

二人は非常階段の入り口に来た。朝は人が少なく、階段は静かだった。

「私たちのことを、おじいさまに話したの?」

藤田深志は、おじいさまが突然心臓発作を起こすような出来事は他にないと考え、自然とこの女が離婚の話をしたのではないかと疑った。

鈴木之恵は冷笑した。「あなたがやったことでしょう?自分で分かってるくせに」

藤田深志はタバコに火をつけ、深く一服した。

「私が何をしたって?はっきり言ってみろ」

鈴木之恵は彼の一挙手一投足を見ていると、まるで事後のタバコのように思えた。

彼は満足したのだろう。人を一晩中もてあそび、おじいさまを死の淵まで追いやって。

「おじいさまはあなたの電話を聞いて倒れたのよ。あなたの性生活なんて、世界中に知らせる必要があったの?

私のことが気に入らないなら、私が彼女のために身を引くわ。今すぐ民政局に行って離婚届を出しましょう。わざわざこんなことで私を困らせる必要なんてないでしょう?」

藤田深志の表情が変わった。この女は自分に隠しカメラでも仕掛けているのか?

「俺を尾行してたのか?」

鈴木之恵は冷笑いながら顔をそむけた。

「あなたの体についている女の香水の匂いを嗅げば分かるわ。尾行なんて必要ないでしょう?玉竜湾マンションには私も行ったことがあるし、暗証番号だって私が設定したのよ。この二日間帰って来なかったのは秋山奈緒と過ごしていたんでしょう。足の指でも分かるわ」

藤田深志は恨めしそうに彼女を見た。昨夜は確かに間違いを犯した。それは初めてのことで、以前はあそこで一晩を過ごすことなどなかった。なぜ彼女の心の中では、彼が帰らない時はいつも玉竜湾にいると思うのだろう?

「昨日は酔っていた」

彼は唐突に説明したが、言った途端に言葉を取り消したくなった。この言い訳は誰が聞いても信じないだろう。それに、昨日は確かに人としてすべきでないことをした。

鈴木之恵は彼を横目で見た。

「それはおじいさまに説明してください。私に言う必要はないわ。どちらにしても、あと数日我慢すれば、発表会が終わったら離婚届を出しに行きましょう」

夫婦喧嘩で、藤田深志は初めて言葉に詰まった。