藤田深志の顔が一瞬にして暗くなり、箸を置いて食欲を失った。彼は意地を張って言った。
「ああ、女を隠してるよ」
鈴木之恵は立ち上がって服を整え、気軽な口調で全く気にしていない様子で言った。
「では藤田社長のお邪魔はしません。ごゆっくりどうぞ。午後の仕事に遅れないようにご注意を」
そう言ってドアを開けて出て行きながら、心の中で思った。「あなたのことはよく分かっている。異常なまでの審美眼の持ち主で、秋山奈緒のようなトップクラスの白蓮花以外、誰があなたの目に適うというの?」
彼は秋山奈緒しか愛していない。それは彼女が一番よく知っていることだった。
鈴木之恵は自分と秋山奈緒の七割方似ている顔を思い出し、心が苦くなった。
三年の夫婦生活で、かつては彼が自分に少しは心を動かしてくれたと思っていた。少なくともベッドの上では、彼が情熱的になる時、目の中には自分だけがいて、耳元で何度も何度も愛称を呼んでくれた。あの「之恵」という呼び声は砂糖衣をまとった毒薬のようで、彼女は自分のための逃げ道を一つも残さないほど夢中になり、心を開いて見せたいとまで思った。
しかしそれらの温もりは全て秋山奈緒の帰国の前では無力だった。
結局は庄周の胡蝶の夢のように、彼女が最も大切にしていた三年間は、彼の理想の女性の代役に過ぎなかった。
彼のような性格の人を誰が強制できただろう。もしこの顔でなければ、おそらく取り繕うことすらしなかっただろうし、まして自分と結婚などするはずもなかった。
藤田深志は腰に手を当てて部屋の中を何周か歩き回り、今村執事に電話して片付けを頼み、ついでに愚痴もこぼした。今村執事は余計なことは言わず、片付けを終えるとすぐに立ち去った。この方を怒らせる勇気など誰にもない。
鈴木之恵は食べ物に飽き、つわりがまた彼女を苦しめ始め、午後はトイレで何度か吐いた。
給湯室で水を飲みに行くと、秋山奈緒もいて、デザイン部の女性社員も一人いた。二人はハイチェアに座ってお茶を飲んでいた。
まさに因縁の出会いだった。
鈴木之恵は彼女を避ける必要はなかった。給湯器のお湯がまだ沸いていなかったので、少し待つ必要があった。彼女はカップを給水口の下に置いて、お湯が沸くのを待った。
「奈緒さん、午後トイレで誰かが吐いているの聞こえました?」