第62章 あなたの男はここにいる

小柳さんは眠気に朦朧としながら、携帯を見ると深夜1時近くになっていた。約5分後、小柳さんは鍵を持って上がり、藤田深志に手渡すと、客室の方向を見ながら、思わず助言した。

「旦那様、奥様は実は機嫌を直すのは簡単なんです。女性は言葉に敏感な生き物ですから、あなたが少し優しく言葉をかければ、若い二人は仲直りできますよ。」

藤田お爺さんは曾孫を抱きたくて毎日欠かさず電話をかけてくるが、彼女は若い二人の別々に寝ることについて何も手助けできない。あの二人とも自分の考えがあるから、余計なことは言えない。言い過ぎると嫌われるだけだ。

藤田深志は鍵を受け取りながら頷いた。「ご迷惑をおかけしました、小柳さん。どうぞお休みください。」

小柳さんは急いで階下に降りた。若い二人の仲直りの邪魔をしたくなかったからだ。

藤田深志は鍵を鍵穴に差し込んで回すと、簡単にロックが開いた。

室内から漂ってくる香りが彼の心に焦りを生じさせた。

彼女は睡眠用のアロマを使っていた。

彼はベッドの側に行き、何度目かわからないが夜中にこうして彼女を見つめていた。夜のメイクは綺麗に落とされ、白くて清潔な小さな顔は瑞々しく、小さな口は少し開いていて、吐く息が直接彼の顔にかかった。

「之恵」

彼が呼びかけても、彼女は甘い眠りについたままだった。

彼は布団の端をめくって彼女の隣にそっと横たわり、彼女を抱き寄せた。

鈴木之恵は体を反転させ、ふわふわした頭を彼の胸に押し付けた。その落ち着きのない小さな手も慣れた様子で彼のパジャマの中に入り込んだ。

熟睡している彼女の警戒心はほぼゼロになっていた。

「深志、あなたが秋山奈緒のために私と離婚するなんて、私本当に辛いわ。」

藤田深志の体が一瞬硬直した。「之恵、離婚協議書は僕が破り捨てたよ。」

彼は秋山奈緒と完全に会わない、連絡を取らないという約束はできなかった。さらに何か説明しようとした時、胸元が濡れているのを感じた。親指でその卵のように滑らかな小さな顔を優しく撫でると、涙で顔が濡れていることに気付いた。

「離婚したくないなら、なぜ離婚協議書にあんなにさっぱりと署名したんだ？」