陸田直木は即座に足を止め、
「何を言ってるんだ?」
藤田晴香は顎を上げ、誇らしげに言った。
「彼女は兄の初恋よ。兄と鈴木之恵はいずれ離婚するわ。あんな取り柄のない女が私の義姉になれるはずがないもの。私の義姉は奈緒のような令嬢でなければならないわ」
陸田直木は衝撃的な話を聞いた。あの女が藤田深志に暗示的な言葉を投げかけているのを見て疑問に思っていたが、藤田家がこれほど底なしとは思わなかった。彼の女神をどういう立場に置くというのか?
あの女は不倫を知りながら関係を持ち、さらに重要なのは藤田の兄妹が彼女を受け入れ、友人として扱っていることだ。この事実に陸田直木は頭が混乱し、考えがまとまらなかった。彼らとは価値観が合わない、この婚約は必ず解消しなければならないと思った。
この家族は価値観がめちゃくちゃで、いわゆる婚約者も暴言を吐き、教養のかけらも見えない上に方向音痴で頭もおかしい。今、あんなに素晴らしい女神のような人がこんな奇妙な家族に出会ってしまったことを考えると、心が痛んだ。
「兄を見つけたんだから、自分で上がってください。私は用事があるので先に失礼します」
真相を知った今、あの偽善者を大切にする藤田深志の姿を見るのに耐えられなかった。
陸田直木は一刻も早くその場を去りたかった。
藤田晴香が後ろから何度か呼びかけたが、陸田直木は振り向きもせず、病院を出て自分の車で市内へ向かった。
両家の和を損なわずにこの問題をどう処理すべきか考えていた。自分の父は面子を重んじる人で、当時は彼に頼んで縁談を持ちかけたのに、今度は婚約解消を頼むなんて、あの頑固な父は絶対に認めないだろう。
この問題は本当に頭が痛く、考えれば考えるほど混乱した。
藤田晴香は3階まで上がり、息を切らしていた。何年も階段を使っていなかったのだ。
藤田深志と秋山奈緒は長椅子に座っており、藤田深志は壁にもたれ、秋山奈緒は彼の胸に同じ姿勢で寄りかかっていた。秋山奈緒は首にネックカラーをつけており、かなり怖い様子だった。
「お兄ちゃん、奈緒、やっと見つけた。うっ、奈緒の首どうしたの?折れちゃったの?」
秋山奈緒は藤田晴香の声を聞いて、心の中で呪った。こんな時に何しに来たのか、来るべき時に来ず、来るべきでない時に現れる。
藤田深志は救世主を見つけたかのように、