陸田直木は即座に足を止め、
「何を言ってるんだ?」
藤田晴香は顎を上げ、誇らしげに言った。
「彼女は兄の初恋よ。兄と鈴木之恵はいずれ離婚するわ。あんな取り柄のない女が私の義姉になれるはずがないもの。私の義姉は奈緒のような令嬢でなければならないわ」
陸田直木は衝撃的な話を聞いた。あの女が藤田深志に暗示的な言葉を投げかけているのを見て疑問に思っていたが、藤田家がこれほど底なしとは思わなかった。彼の女神をどういう立場に置くというのか?
あの女は不倫を知りながら関係を持ち、さらに重要なのは藤田の兄妹が彼女を受け入れ、友人として扱っていることだ。この事実に陸田直木は頭が混乱し、考えがまとまらなかった。彼らとは価値観が合わない、この婚約は必ず解消しなければならないと思った。