藤田深志は一瞬固まり、助手席の秋山奈緒がまた声を上げた。
「深志さん、助けて、助けて……」
藤田深志はもう躊躇わず、自分のスーツの上着を取って秋山奈緒を包み込むように抱きかかえて車から出た。
鈴木之恵は全身が冷え切っていた。雨のカーテン越しに、彼が秋山奈緒を命がけで抱きかかえて走る姿を見つめた。きっと必死なのだろう。携帯を水たまりに落としても拾う暇もないほどに。
ゴルフ場での秋山奈緒の冗談が、こんなにも早く現実となった。本当に彼女をこんな人里離れた道路に置き去りにし、慰めの言葉すら一つもなかった。
鈴木之恵は全身の力が抜け、泣く気力さえなくなっていた。
彼女は何とか気力を振り絞り、携帯を開いて八木真菜の番号に電話をかけた。この場所は八木真菜の病院から近かった。
八木真菜はすぐに来てくれた。救いの手を見た瞬間、彼女はようやく安心して目を閉じ、気を失った。