第106章 あのグリーン茶女

藤田深志は一瞬固まり、助手席の秋山奈緒がまた声を上げた。

「深志さん、助けて、助けて……」

藤田深志はもう躊躇わず、自分のスーツの上着を取って秋山奈緒を包み込むように抱きかかえて車から出た。

鈴木之恵は全身が冷え切っていた。雨のカーテン越しに、彼が秋山奈緒を命がけで抱きかかえて走る姿を見つめた。きっと必死なのだろう。携帯を水たまりに落としても拾う暇もないほどに。

ゴルフ場での秋山奈緒の冗談が、こんなにも早く現実となった。本当に彼女をこんな人里離れた道路に置き去りにし、慰めの言葉すら一つもなかった。

鈴木之恵は全身の力が抜け、泣く気力さえなくなっていた。

彼女は何とか気力を振り絞り、携帯を開いて八木真菜の番号に電話をかけた。この場所は八木真菜の病院から近かった。

八木真菜はすぐに来てくれた。救いの手を見た瞬間、彼女はようやく安心して目を閉じ、気を失った。

目が覚めると、目に入ってきたのは白い壁で、かすかな消毒液の匂いが鼻をついた。

「之恵、やっと目が覚めたの?」

八木真菜の顔が目の前で大きくなり、鈴木之恵は突然気を失う前の出来事を思い出し、慌てて布団を握りしめた。

「真菜、赤ちゃんは大丈夫?」

八木真菜は急いで安心させた。

「大丈夫よ、赤ちゃんは元気。あなたは過度の驚愕と低血糖で気を失っただけ。私が検査したけど、赤ちゃんの心拍も良好だから安心して。」

鈴木之恵の張り詰めていた神経が緩んだ。そこでようやく自分の手足に力が入らないことに気付いた。

「真菜、どうして私こんなに力が入らないの?」

八木真菜は布団の下の彼女の腕を優しくマッサージしながら、

「過度の驚愕で、まだ体が回復していないのよ。マッサージしてあげるわ。そうそう、あなたの携帯が何度も鳴って電池切れになったから、充電しておいたわ。電源入れて家族に無事を知らせたら?」

そう言って携帯を渡してきた。

鈴木之恵は苦労して手を伸ばし、電源ボタンを押した。最近の着信履歴には数え切れないほどの不在着信が並んでいた。スクロールしても終わりが見えないほど、全て同じ見覚えのある番号からだった。

その番号がどこか見覚えがあるような気がして思い出そうとしているところに、またその電話がかかってきた。鈴木之恵は軽くスライドして電話に出た。