「パン!」
花火が海上で咲き誇り、華やかな花を咲かせた。その花びらが落ちていき、空中に幾筋もの光の跡を描き、まるで壮大な流星群のようだった。
鈴木之恵は呆然と見とれていた。
突然目の前で開いたこの花火は、予期せぬ驚きのようだった。彼女にとって、お腹の中の赤ちゃんもそんな驚きで、人生で最も辛く落ち込んでいた時期に光を見せてくれ、諦めかけていた結婚生活にも新たな期待を抱かせてくれた。
遠くでは、新しい花火が次々と空へ打ち上げられ炸裂し、ヨットからは耳をつんざくような歓声が上がっていた。
鈴木之恵は目が足りないほどで、世界中が光に溢れていた。
藤田深志は彼女が花火に魅了される様子を見て、気が散らされながらも一緒に見つめていた。女性は華やかで実用的でないものが好きだ。普段物欲のない彼女でさえ例外ではなかった。
彼は鈴木之恵がジュエリーしか好まないと思っていた。他に趣味があることに気づかなかった。
「好きか?」
彼は尋ねた。
鈴木之恵は頷いた。花火を好まない女性などいないだろう。
「好きなら、今度二人きりで来よう」
海風が強く、ちょうど一輪の花火が空で炸裂した。藤田深志の声はヨットの歓声に埋もれてしまった。鈴木之恵は彼が何か言ったことは分かったが、何を言ったのかは聞き取れなかった。
こちらは花火を見ていたが、誰も公衆トイレの中で、淡いピンク色のドレスを着て綺麗な化粧をした女性が激しく吐いていることに気付かなかった。
藤田晴香は片手にバッグを持ち、もう片手に水のボトルを持って焦りながら、
「奈緒、大丈夫?どうして乗船してからずっと吐いているの?」
秋山奈緒は吐き気で苦しみ、アーモンド形の目に涙を浮かべながら、
「晴香、水をちょうだい。うがいしたいの」
藤田晴香は急いでボトルのキャップを開け、水を彼女に手渡した。彼女の苦しそうな様子を見て心配になり、
「この二、三日何か変なものでも食べたの?知らない人が見たら妊娠してるんじゃないかって思うわよ。ずっと吐き続けて、自分のケアもできてないなんて。せめて兄さんにお手伝いさんを雇ってもらえばいいのに。こんな状態じゃダメよ。長引けば胃を壊しちゃうわ。明日帰ったら病院に連れて行くから、これ以上放っておけないわ」
秋山奈緒は表情を固め、藤田晴香の方を向いて、
「晴香、今なんて言った?」