秋山奈緒はこの角度からちょうど入り口が見え、藤田深志が長身で立っているのが目に入った。彼の眼差しは冷たかった。彼女は横目で秋山泰成を見て、とても気まずく感じた。
「お父さん、もういいから……」
秋山泰成はまだ秋山奈緒が藤田家の長男を身ごもったという喜びに浸っており、藤田深志が来ていることに全く気付いていなかった。
「なぜ言わせてくれないんだ。どこの家の財産だって息子に渡すものだろう。私には息子がいないから、もし息子がいたら、私も……」
ここまで話すと、部屋にいる数人の表情が一変した。
秋山泰成は自分が失言したことに気付き、本心を口にしてしまったことを悟った。
「奈緒、安心して藤田夫人をやりなさい。これからはビジネスで父さんを助けてくれないか、藤田深志に良い言葉をかけてくれ。父さんには何のバックグラウンドもない、起業は本当に大変だった。会社をここまで育てるのに、酒を何杯も飲んで、胃がもう穴が開きそうだ。」