鈴木之恵は彼の手にあるファイルを横目で見て、彼が本気だと分かった。
彼女も遠慮する気はなかった。今の彼らの関係は遠慮できる関係ではなかった。
藤田深志というその冷たい石は、三年経っても温められなかった。彼と感情を語るより、お金の話をした方が気が楽だった。
結婚三年、彼からお金を得られるのも良いことだ。しかも二人の子供もいる。
彼女が切り出した話に彼も応じる気があるなら、この株式譲渡書にサインするつもりだった。
「今すぐサインしましょう!」
鈴木之恵は足を止め、視線は別の場所に向けたまま、彼との目を合わせることを避けた。
藤田深志は少し黙ってから尋ねた。
「車の中でする?」
彼の車は病院の駐車場に停めてあり、こんな重要な書類には、少しは儀式めいた雰囲気が必要だと思った。