藤田深志は扉を少し開け、体を横にしてすり抜けると、次の瞬間にはドアが閉まった。
鈴木之恵は突然入ってきた人を警戒した表情で見つめ、
「あなた、何をするの?」
彼女はプライバシーを隠すのではなく、本能的に腹を手で覆った。
藤田深志は裸の女性を見つめ、喉が軽く動いた、
「転んだのか?」
鈴木之恵は警戒しながら彼を見て、ゆっくりと背後の壁から離れ、まっすぐに立った。一歩の距離にあるハンガーにはバスタオルが掛かっていて、彼女はそのタオルを取って、せめて体を隠したいと思った。
お互いの体には慣れているとはいえ、この片方だけが裸になっている状況は、彼女にとって何とも気まずかった。
彼女が一歩前に出ると、思いがけず再び足を滑らせ、今度は直接藤田深志の胸に倒れ込んだ。幸い彼は素早く彼女を受け止めた。
鈴木之恵は気まずそうに咳払いをし、彼の胸から抜け出そうともがいた。
藤田深志は大きな手で彼女の腰をつかんだまま、何も言わずにただじっと彼女を見つめていた。
鈴木之恵は恥ずかしさなのか、お湯の熱さなのか、全身の肌が不自然なピンク色を帯び、狐のような目は湿り気を帯びて、特に魅惑的に見えた。
「手を離してよ!」
鈴木之恵は顔を赤らめながら言うと、藤田深志は我に返った。
「このバスルームの床は滑り止めがついていないな。病院側に指摘しないといけないな。」
藤田深志が手を離すと、鈴木之恵は今度は慎重に動き、ようやく命綱のようなバスタオルに指を掛けることができた。
彼女は自分の体を急いで包み込み、やっと顔を上げて彼を見た、
「出て行かないの?」
藤田深志は軽く笑い、彼を使い終わったら追い出すのかと。彼女のその泥棒でも見るような表情を見て、まるで自分が覗きに来た不埒な男であるかのようだった。
彼女が転んだ音を聞かなければ、入ってくることもなかったのに。見たことないわけでもないのに、何が珍しいというのか!
藤田深志がドアを開けて出ていくと、鈴木之恵はほっと息をついた。
彼女はバスタオルを外して服に着替え、鏡の前で自分の体型を確認した。横から見ると本当に目立っていて、お腹が小さく膨らんでいた。
着替えを済ませて出てくると、藤田深志は椅子に寄りかかって座り、片足を組んでくつろいだ様子で携帯を見ていた。