第167章 彼女を錦園へ連れ帰る

鈴木之恵は半分眠りながら、自分が彼に抱かれていることを知っていた。今のような状態はよくないとわかっていたが、もう動く力が残っていなかった。

彼に抱かれているのは確かに心地よかった。

病気の時は人は弱くなりがちで、彼の胸に寄り添いながら、目が潤んでいた。

この瞬間の温もりに執着しながらも、自分の意気地なさを責め、彼に対して心を静めることができないでいた。彼にはそういう風に彼女を混乱させる力があった。

車はすぐに錦園に戻り、藤田深志が彼女を抱き下ろすと、柏木正は急いで前に走って行きドアを開けた。

秋山奈緒に食事を届けて戻ってきた小柳さんは、状況を見て駆け寄り、

「奥様、どうなさいましたか?」

藤田深志は彼女を抱きかかえて階段を上りながら、小柳さんに指示を出した。

「まず温かい水を持ってきて、薄めのお粥を作って。奥様が熱を出している。」