藤田深志は車の中に座り、携帯を握りながら思いに耽っていた。
過去のことを思い返すと、この世に生まれてきた意味すらないように感じ、まさに藤田家の遺伝子を侮辱しているようなものだった。
手元にある録音を鈴木之恵に聞かせたかったが、午前中ずっと陸田直木のあの悪党の妹に監視されていて、機会が見つからなかった。
柏木正は運転に集中しながら、
「社長、パソコンは奥様のところに置いたままで、京都府に戻ったら新しいのを買わないといけませんね。重要な書類は奥様に送ってもらうことになります。会社の重要資料は…」
藤田深志は重要資料という言葉で我に返り、
「彼女のところに置いておいて大丈夫だ。後で私から話をする。」
「社長、奥様のプライベート番号を聞き出しました。もうお使いの携帯に送っておきました。」
柏木正は藤田深志と一緒に鈴木之恵のところにいた時間を無駄にせず、すでにカーマグループ内部との関係を築き、簡単に鈴木之恵の個人番号を聞き出していた。優秀な秘書として、社長の命令が下る前に物事を片付けておくべきだ。そうすればより高いボーナスが期待できる。
藤田深志は柏木正のLINEを開くと、確かに番号が送られていた。その番号を自分の連絡先に「之恵」と登録した。
柏木正はバックミラー越しにちらりと見て、自分の社長の比類なく美しい顔に久しぶりの笑みが浮かんでいるのを見た。
「社長、今月のボーナスは…」
藤田深志は目尻を上げ、
「最近の仕事ぶりは良かった。ボーナスは3倍にしよう。」
柏木正は今すぐ路肩に車を止めて妻に電話したいほど嬉しかった。来月結婚式を挙げる予定で、まさにお金が必要な時期だった。結婚式は自分の能力の範囲内で最高のものにしたいと考えていた。長年の恋愛に完璧なピリオドを打ちたかった。
これで予算ができ、計画していたよりもワンランク上のホテルを予約でき、妻にダイヤモンドの指輪も買えることになった。
「ありがとうございます、社長。」
良い気分は伝染する。藤田深志は柏木正の喜びを感じ取り、車内の空気まで心地よく感じられた。
「私が払っている年俸は低くないはずだが、この程度の金額でそんなに喜ぶのか?」
柏木正は後頭部まで届きそうだった笑顔を抑え、