ドアがギーッと開き、柏木正は鈴木之恵を先に通した。
リビングは明かりがついており、静寂に包まれていた。
柏木正は後に続いて入り、下駄箱を半分ほど探って、新しい男性用のスリッパを取り出した。
「奥様、藤田社長の家には男性用の靴がありますが、とりあえずこれを履いてください。明日新しいものを買ってきます」
鈴木之恵はそのスリッパを見つめ、一瞬怔んだ。以前、家で彼のスリッパを履いたことがあった。一度、お風呂に入った時に自分の履いていた靴も一緒に洗って、彼のスリッパを履いて出てきたら、そのスリッパは二度と家に現れなかった。
そのことで、彼女は長い間悲しんでいた。
鈴木之恵は靴を脱ぎ、少し躊躇した後、素足で中に入った。
「奥様、藤田社長は寝室におります」
柏木正は先頭に立って部屋へ向かった。部屋のカーテンは閉め切られていた。