小川淳は咳払いをして、鈴木之恵にお酒を注ぎ続けた。
「おばさん、ご自分の息子のことを先に心配なさったほうがいいんじゃないですか?私たちの之恵は、容姿も才能もあるのに、なぜ目の見えない足の不自由な人と男を争う必要があるんですか?ここで無駄口を叩くひまがあるなら、早く息子さんの嫁探しでもしたほうがいいですよ。これ以上遅れたら、目の見えない足の不自由な人さえも他人に取られてしまいますよ」
陶山蓮華は唇が白くなり、立っているのがやっとだった。
「晴香、行きましょう、行きましょう!」
レストランのマネージャーは二人を向かいの個室に案内し、藤田晴香に新しいタオルを持ってきた。
藤田晴香はまだぶつぶつと文句を言い、復讐すると叫んでいたが、赤ワインを二杯浴びせかけられた後、鈴木之恵がもう以前のような扱いやすい性格ではなくなっていることに気づいた。自分は大声で威張り散らしていたものの、実際の行動には移せなかった。
そのとき、陶山蓮華が約束していた人が到着した。沢田夫人が自慢の娘、沢田有希子を連れてきたのだ。
藤田家と沢田家は取引関係があり、奥様たちの間でも沢田夫人は陶山蓮華に対して極めて丁重だった。そのため、陶山蓮華は沢田家に注目していた。
陶山蓮華は今回、沢田夫人を呼び出し、娘の沢田有希子が藤田家の若様のお嫁さんとして相応しいかどうかを試すという口実を設けた。もし全ての面で満足できれば、息子に紹介するつもりだった。
今や鈴木之恵にあんなに腹を立てられた後では、相応しいかどうかはもう重要ではなくなった。鈴木之恵でなければ、誰が嫁になってもいいと思った。
さらに、藤田深志の側に早急に女性を送り込む必要があった。彼の気を紛らわせ、あの粗野で無礼な女に夢中になるのを止めさせたかった。藤田グループの社長が毎日女の尻を追いかけ回すなんて、どういうことだろう。あんな身分の低い女が息子にあんな扱いを受ける資格なんてない。
沢田夫人は空気を読むのが上手な人で、母娘が個室に入るとすぐに娘に指示した。
「有希子、早く陶山叔母さんにご挨拶しなさい。これからもっと親しい縁になるかもしれないわよ」
沢田有希子は唇を曲げ、えくぼを見せながら、
「叔母様、こちらプレゼントをお持ちしました。お気に召していただけますでしょうか」