第277話 霍家に良い人はいない

ハイヒールの足音が近づいてくると、鈴木之恵は顔色を失い、両手を強く握りしめた。

ドアの外では、藤田晴香が陶山蓮華の腕を取り、宝石や真珠で着飾った富裕層の奥様と令嬢の姿で個室に向かってきていた。

マネージャーはこちらでは説得できず、再び二人の手に負えない大物に謝罪した。

「藤田夫人、藤田お嬢様、大変申し訳ございません。個室のお客様がお食事の途中で、席を移動していただくのは難しい状況です。向かいの豪華個室をご用意させていただき、藤田社長に良い話を入れていただければと思います。当店が開業できたのも藤田社長のお知り合いのおかげですので。」

藤田晴香は鼻で笑い、

「母は、この部屋しか気に入らないの。中にいる人をすぐに出してもらえない?このお食事代は藤田家が持つから、今日はどうしてもこの個室が必要なの。」

陶山蓮華は藤田晴香の手首に添えられた自分の手を軽く叩き、

「晴香、言葉遣いに気をつけなさい。お祖父様が聞いたらまた怒られますよ。」

そう言って、マネージャーに笑顔で話しかけた。

「大野マネージャー、大変申し訳ありません。今回は大切なお客様をお招きしていて、いつもこの個室を使わせていただいているものですから。中のお客様にお詫びの言葉を伝えていただき、そのお食事代は私の部屋に付けていただければと思います。お客様がもうすぐいらっしゃいますので、よろしくお願いいたします。」

個室の中で、鈴木之恵は冷笑した。陶山蓮華が本当に藤田晴香を叱るわけがないと分かっていた。陶山蓮華はただ言い方を変えただけで、彼女たちは自分たちの理不尽な要求に何の問題もないと思っているのだ。

他人が同意しなくても、強引に押し通そうとする。金に糸目をつけない態度でレストランのマネージャーを困らせる。

藤田晴香が今日のような性格になったのは、すべて陶山蓮華の功績だった。

マネージャーは深く息を吸い、無理やり笑顔を作ってまた入り口に立った。

マネージャーが口を開く前に、鈴木之恵が先に宣言した。

「大野マネージャー、もう聞く必要はありません。この個室は変えたくないと言いました。誰が来ても変えません。」

大野マネージャーは言葉を詰まらせ、どちらのお客様にも言いにくい立場で、板挟みになって困っていた。

藤田晴香はせっかちな性格で我慢できなくなり、