一方、藤田深志は鈴木之恵から送られてきた音声メッセージを何度も再生していた。どう聞いても男の声が彼の妻と話をしており、彼の妻を「妹」と呼び、京都府のことも話題に出していた。
藤田深志は心の中で漠然とした不安を感じていた。彼女の周りに陸田直木以外の男が現れ、二人は一緒に行動しているようだった。木村悦子の言葉の端々から、ある考えが浮かんできた。もしかして之恵は京都府に戻ったのだろうか?
彼はそう考えるとすぐに柏木正を呼び入れた。
「奥様の秘書の電話番号を持っているだろう?」
柏木正は社長が東京都に戻る準備をしているのだと思った。彼も早く戻りたがっていた。結局、妻を一人でホテルに置いてきたので、心配だったのだ。
「藤田社長、はい、持っています!奥様のことが心配でしたら、明日にでも戻りましょう。あの美しいお顔の奥様ですから、好きになる人も多いはずです。油断はできませんよ!」
この言葉は藤田深志の心に突き刺さった。あの憎らしい男どもめ!
「木村悦子に電話して、奥様にアイスクリームケーキを注文したから、何時に届けるのが良いか聞いてくれ。」
柏木正はその場で携帯を取り出して電話をかけ、結果は藤田深志の予想通り、鈴木之恵は京都府に戻っていた。
藤田深志は彼女が何故京都府に戻ったのか分からなかったが、直感的に重要な用事があるのだろうと推測した。そう考えると、じっとしていられなくなった。
彼は柏木正から車の鍵を受け取り、急いで出て行った。灰色の顔をした柏木正がその場に呆然と立ち尽くしていた。
藤田深志はあれこれ考えた末、鈴木之恵が京都府で行けるのは一箇所しかないと思った。それは彼女の母親が残した別荘だ。ナビを見る必要もなく、直接車を走らせた。
夜の闇が迫る中、別荘は真っ暗で、人がいる様子は見えなかった。
彼は車を別荘の外のフランスプラタナスの木の下に停め、携帯を見つめながら彼女に電話をかけるべきか迷っていた。彼は24時間彼女に付きまとっていたいと思う一方で、そうすることで彼女を怖がらせてしまうのではないかと心配だった。
そう悩んでいるところに、白い車が来て門の前に停まった。
鈴木之恵はシートベルトを外して車を降り、車の中の人に手を振り、彼女を送ってきた人が去るのを見送ってから鍵を探し始めた。