第288章 彼女を狙って来た

「私は行かないわ。先に薬を飲んで」

藤田深志は必死に目を開け、鈴木之恵は直接薬を彼の口元に持っていき、ようやく解熱剤を飲ませることができた。

鈴木之恵は水を持ってきて、うがいをさせようとしたが、数秒のうちに彼はまた眠りに落ちた。しかし、彼の手は依然として彼女をしっかりと掴んでいた。彼女が彼の寝ている間に逃げてしまうのを恐れているかのように。

彼は今、発熱だけでなく、全身が痒く、胃も灼けるように痛んでいた。朦朧とした意識の中でも、彼女が去ってしまうことを心配していた。

鈴木之恵は深いため息をつき、そっとベッドの端に座った。

およそ30分ほど経って、柏木正と古田先生が薬を持って戻ってきた。柏木正はドアをノックした。

鈴木之恵は目配せをし、二人は足音を忍ばせて部屋に入った。

古田先生は「奥様、この薬は外用薬です。一日3回塗布してください。藤田社長の発疹が3日で引かない場合は、薬を変更する必要があります」

鈴木之恵は軟膏を手に取って暫く見つめ、

「今塗るべきですか?」

鈴木之恵は、彼がようやく安らかに眠れたところだと思った。

そう尋ねた直後、藤田深志は首を激しく掻き、皮膚を数カ所引っ掻き破ってしまった。彼自身はそのことに全く気付かず、掻き終わるとまた眠りに落ちた。

古田先生はため息をつき、

「奥様、申し訳ありませんが、藤田社長に薬を塗っていただけますか。引っ掻き傷は感染する恐れがあり、そうなるとさらに厄介なことになります」

鈴木之恵はようやく事態の深刻さを理解したが、なぜ彼女が薬を塗らなければならないのか?

今は薬を塗れるような関係ではない!

「古田先生、今は私の名前で呼んでください。柏木秘書、あなたが」

古田先生は一瞬戸惑い、ベッドに横たわる藤田深志を見て返事ができなかった。

柏木正は突然名前を呼ばれ、頭が高速回転した。藤田社長に薬を塗るということは、間違いなく上着どころかズボンまで脱がさなければならない。明日社長がこのことを知ったら、自分の命は危ないのではないか?

しかし考え直してみると、奥様の命令に背けば、もっと命が危ないかもしれない。

損得を天秤にかけた結果、彼は軟膏を受け取ることにした。

鈴木之恵は寝室を出た。