「私は行かないわ。先に薬を飲んで」
藤田深志は必死に目を開け、鈴木之恵は直接薬を彼の口元に持っていき、ようやく解熱剤を飲ませることができた。
鈴木之恵は水を持ってきて、うがいをさせようとしたが、数秒のうちに彼はまた眠りに落ちた。しかし、彼の手は依然として彼女をしっかりと掴んでいた。彼女が彼の寝ている間に逃げてしまうのを恐れているかのように。
彼は今、発熱だけでなく、全身が痒く、胃も灼けるように痛んでいた。朦朧とした意識の中でも、彼女が去ってしまうことを心配していた。
鈴木之恵は深いため息をつき、そっとベッドの端に座った。
およそ30分ほど経って、柏木正と古田先生が薬を持って戻ってきた。柏木正はドアをノックした。
鈴木之恵は目配せをし、二人は足音を忍ばせて部屋に入った。
古田先生は「奥様、この薬は外用薬です。一日3回塗布してください。藤田社長の発疹が3日で引かない場合は、薬を変更する必要があります」
鈴木之恵は軟膏を手に取って暫く見つめ、
「今塗るべきですか?」
鈴木之恵は、彼がようやく安らかに眠れたところだと思った。
そう尋ねた直後、藤田深志は首を激しく掻き、皮膚を数カ所引っ掻き破ってしまった。彼自身はそのことに全く気付かず、掻き終わるとまた眠りに落ちた。
古田先生はため息をつき、
「奥様、申し訳ありませんが、藤田社長に薬を塗っていただけますか。引っ掻き傷は感染する恐れがあり、そうなるとさらに厄介なことになります」
鈴木之恵はようやく事態の深刻さを理解したが、なぜ彼女が薬を塗らなければならないのか?
今は薬を塗れるような関係ではない!
「古田先生、今は私の名前で呼んでください。柏木秘書、あなたが」
古田先生は一瞬戸惑い、ベッドに横たわる藤田深志を見て返事ができなかった。
柏木正は突然名前を呼ばれ、頭が高速回転した。藤田社長に薬を塗るということは、間違いなく上着どころかズボンまで脱がさなければならない。明日社長がこのことを知ったら、自分の命は危ないのではないか?
しかし考え直してみると、奥様の命令に背けば、もっと命が危ないかもしれない。
損得を天秤にかけた結果、彼は軟膏を受け取ることにした。
鈴木之恵は寝室を出た。