第292章 苦悩

藤田深志は椅子の背もたれに掛かっているスーツの上着に目を留め、眉間にしわを寄せながら、それを手に取って柏木正に投げ渡し、自分は鈴木之恵の隣に座った。

「之恵、バスケを見るのが好きなの?」

鈴木之恵は「うん」と答えたが、スマートフォンの画面から目を離すことはなかった。このような下手な挨拶の仕方は、むしろ「あなたは私の元妻に少し似ている」と直接言った方がましだ。

藤田深志は前で激しくバスケをしている二人を皮肉っぽく見やった。二人とも彼の目には入らなかった。

「之恵、叔父さんと一緒に来たの?」

鈴木之恵は首を振り、相変わらず寡黙に、

「違います」

彼女が違うと言ったので、彼の心は少し楽になった。気持ちが緩んだその瞬間、彼女がこう言うのを聞いた。

「小川社長と一緒に来ました」

藤田深志は息が詰まり、嫉妬の壺が完全に覆った。

「之恵、その小川淳がどんな人間か知ってるの?そんなに親しくしていいの?彼の元カノを全部集めたら一個中隊になるよ。お姉さん系もロリータ系も、清楚系も、OL系も、何でも食い散らかすタイプだから、近づきすぎると損するよ」

藤田深志は小川淳のことを徹底的に調査していた。三十代の成功した男性として、恋愛経験が皆無だというのも信じがたいが、彼の言うように元カノが一個中隊になるほど多いというのも、少し大げさすぎた。

鈴木之恵は全く気にせずに尋ねた。

「それがどうしたんですか?」

この一言は藤田深志の心臓を直撃した。あいつの恋愛歴は前科だらけなのに、彼女は全く気にしていないのか?

藤田深志は思わず咳き込み、腕の発疹がまた刺すように痒くなってきた。

柏木正は頭を掻きながら、

「社長、そろそろお薬の時間です」

藤田深志は片足を上げて組み、ゆっくりと言った。

「急がなくていい」

今は心の中の問題の方が急を要していた。

そう言った直後、胸がまた痒くなってきた。今日は昨夜よりも発疹が多く出て、より命取りになるような痒さで、我慢できないほど不快だった。

彼は少しイライラしていた。

柏木正は横で困った表情を浮かべ、

「社長、古田先生が言っていたように、この三日間が重要です。処方された薬は必ず時間通りに塗らないと。そうしないと、もっと多くの仕事に支障が出てしまいます」