鈴木之恵は前で真剣にバスケをしている二人がまだ競い合っているのを見て、さっきまでは藤田晋司の視線から逃げる口実を探していた。
今は藤田深志の出現で、なぜか少し安心した。
「行きましょう、薬を塗りに付き添います」
あのツンデレは言い出しにくそうに我慢していたから、彼女が先に言って面子を保たせてあげた。
ちょうどいい、彼女も行きたかった。
藤田深志の目が輝き、すぐに立ち上がった。
「之恵、行こう」
柏木正:「……」
やはり奥様の言葉が効くんだな。この世で社長を制御できるのは、病魔の次は奥様だけだ。
藤田深志と鈴木之恵が並んで前を歩き、柏木正は後ろで世話用バッグを片付け、先ほど出した物を一つずつ戻していた。
鈴木之恵は歩きながら小川淳にメッセージを送り、用事があって先に帰ること、また今度ご飯を奢ると伝えた。
三人はすぐに駐車場に着き、柏木正は運転席に滑り込み、藤田深志と鈴木之恵が乗り込むのを待って車を発進させた。
藤田深志は体が耐えられないほど痒く、ワイシャツの一番上のボタンを外し、首を軽く掻いた。不快で、我慢しながら抑制していたが、本当に苦しめられていた。
柏木正はルームミラーで後ろを見て、声を掛けた。
「社長、古田先生の処方した薬がバッグにありますが、今塗りますか?」
藤田深志は目尻を上げて鈴木之恵を見た。
「之恵、手伝ってくれない?」
鈴木之恵は遠慮がちに窓側に寄った。
「藤田社長、今の私たちの関係では相応しくありません。他の人にお願いしてください」
藤田深志はさらに試すように尋ねた。
「昨日も一度薬を塗ってくれただろう?それに車の中には三人しかいないし、柏木正は運転中だから、君しか手伝えないんだ」
今の彼の話し方は社長らしくなく、まるで大きな声も出せない小さな夫のようだった。
鈴木之恵はそう言われて表情を固めた。
「私がいつ薬を塗ったんですか?」
「昨日の夜、君じゃなかったのか?手が少し冷たくて、それに……ズボンも脱がせてくれた」
鈴木之恵:「!!!」
「誰があなたのズボンを脱がしたんですか?」
藤田深志は言葉に詰まった。
「君じゃなかったのか?」
前で運転している柏木正は頭皮がゾクゾクした。彼は奥様の指示で社長に薬を塗ったが、昨日社長が朦朧としながら自分を奥様と勘違いしていたとは。