第296章 電話で誰かが彼女をママと呼んだ

鈴木之恵は長い間考えた末、まだ秘密にしておくことにした。彼を安易に父親にさせるわけにはいかない。

少なくとも、しばらく様子を見て、彼が良い父親になれると確信してから伝えることを考えよう。それに、こんな大きな話は、まず二人の子供の気持ちを探ってみないと。

突然父親が現れても、子供たちには受け入れる時間が必要だ。

「しまっておいてください。こんな大きな宝物の箱を抱えて街を歩くのは危険です。誘拐のターゲットになってしまいます。」

誘拐という言葉に、藤田深志は東京都で起きたあの事件を思い出し、今でも胸が締め付けられる思いだった。

「わかった。じゃあ、これを預かっておいて、一つずつ増やしていって、いっぱいになったら届けるよ。」

彼は心の中で、この箱がいっぱいになったら結納の一部として彼女に贈ろうと考えていたが、その言葉は今は口に出せなかった。また地雷を踏んでしまうかもしれないからだ。

楽島ゴルフクラブにて。

藤田晋司と小川淳は三百回戦い、最後に藤田晋司が一打差で勝利を収めた。

小川淳は納得がいかなかった。彼のゴルフの腕は長年の苦練の結果だったし、これまで負けたことがなかった。こんなに強い相手に出会ったのは初めてで、不本意な敗北だった。

「もう一度やろう。三戦二勝で!」

藤田晋司は相手を無視し、東屋の方を振り返って見渡したが、鈴木之恵の姿は見当たらなかった。

彼は眼鏡を押し上げ、クラブを持って戻ってきた。

東屋には島崎勝人一人だけがいた。藤田晋司が近づいてくるのを見て、急いで新しいタオルを開き、水のボトルと一緒に差し出した。

藤田晋司は彼の差し出したものには目もくれず、ポケットからハンカチを取り出して、丁寧に額の汗を拭った。

島崎勝人はこの大物の表情が読めず、ぎこちなく笑って品物をテーブルに戻した。

「藤田社長、お疲れでしょう?昼食に福味亭の個室を予約してありますが、少し休んでから一緒に行きませんか?」

藤田晋司は額を拭い終わると手も拭いたが、しばらく返事をしなかった。鈴木之恵がここにいなければ、島崎勝人とは関わりを持つこともなかっただろう。二人は格が違う人間だった。

彼は鈴木之恵が自分の隙を見て逃げ出したのだろうと推測しながらも、一応尋ねた。

「鈴木さんはどこへ?」