第295章 私には子供がいない

柏木正は冷蔵庫から三人分の麺を取り出し、キッチンへ行って温めようとした。包装を開けると、麺はすでにべちゃべちゃになっていた。

あの気難しい社長が、これを食べられるのだろうかと柏木正は不安になった。デリバリーの注文書にはラーメンと書いてあったが、箱の中にはスープが一滴も残っておらず、全て麺に吸収されていた。もともと細かった麺は箸よりも太くなっていた。

「スープを飲めば胃が楽になりますよ」と言った自分の言葉を撤回したくなった。

柏木正はダイニングの方を振り返って見た。仕方がない、水を足して煮直すしかないだろう。

ダイニングでは、お爺さんがようやく藤田深志が箸をつけていないことに気づいた。彼は木の人形のようにぼんやりと座っていた。

「どうして食べないんだ?」

藤田深志は不満げだった。先ほど柏木正が来て話しかけた時、お爺さんは一言も聞いていなかったようだ。孫の体調を全く気にかけていない。昨日は孫を失いかけたというのに!