藤田晴香は怒りで言葉を失い、数人の女友達は小声で議論を始めた。
「私には藤田社長の鈴木さんを見る目つきが少し違って見えるわ。晴香が言うように秋山奈緒のことを好きというより、むしろ鈴木さんの方を好きなんじゃないかしら」
「『少し』なんて言葉は要らないわ。目は嘘をつかないもの。社長の言葉の中にあの女性への配慮が溢れていたのを聞かなかった?」
「でもあの女性には子供がいるのよ。他の男の子供を育てることになるのに、どの男がそんな子持ちの女性を受け入れるかしら。まさに他人の子供の父親になるってことじゃない!」
「疑う必要ないわ。社長がどれだけ乗り気か見てみなさいよ。鈴木さんの息子に服を買ってあげて、自ら選びに行くなんて。正直、私の父は一度も私に服を買ってくれたことないわ」
「はぁ!」
一人がため息をつき、藤田晴香に向かって言った。
「晴香、お兄さんは他人の子供の継父になりたがってるみたいよ。お兄さんが少し...」
彼女は「舐めすぎ」と言いかけたが、多くの女性の憧れの的である男性にそんな言葉を使うのは適切でないと思い直した。
藤田晴香はこれで完全に激怒した。
「あなたたちはデタラメを信じないで。お兄ちゃんが好きなのは秋山奈緒よ。あんな女性なんか絶対に好きになるはずがないわ」
彼女のその一声は数十メートル先まで響き渡った。
藤田深志は丁度やって来たところで、鈴木之恵のことばかり気にかけていて、晴香がここにいることに全く気付いていなかった。村上拓哉が妹が人を噛みついているなんて言うはずだ。今の発言を聞いただけで腹が立った。
藤田深志は表情を曇らせた。
「晴香、誰と仲良くするか、誰を親友にするかは君の自由だ。だが私を巻き込むな。以前から君は余計な詮索をして義姉に失礼な態度を取っていた。これだけ年月が経っても少しも成長していないな。来月からの小遣いは無しだ。小遣いが多すぎて甘やかしすぎたようだな」
藤田晴香は小遣いが無くなると聞いて、すぐに口を尖らせた。実の兄からの小遣いを当てにしていたのに、おじいさんからもらえる額ではバッグ一つも買えないというのに。
「お兄ちゃん、本当に他人のために実の妹をこんな風に扱うの?お母さんに言いつけるわ。お兄ちゃんが私をいじめたって!」
藤田深志は眉をひそめた。