第345章 彼女のバッグを持つ

藤田深志は弘美について行き、小川淳から約1メートルの距離で足を止めた。

小川淳は弘美が持ってきたフルーツドリンクを手に取り、なぜかオフィスの雰囲気が少し変だと感じた。

「弘美、どうしてパパと一緒に来たの?」

鈴木弘美は今日一日の出来事を興奮して鈴木之恵に話した。

「ママ、義理パパが私をたくさんの猫を買いに連れて行ってくれたの。パパのオフィスにも行ったよ。今、私の猫たちはパパの車の中にいるの。見に行かない?とっても可愛いよ~」

鈴木之恵は納得した。村上拓哉が子供を連れて藤田グループビルに行ったのだと。

「弘美、パパは仕事が忙しいから、勤務時間中は邪魔しちゃダメよ。」

鈴木弘美は小さな唇を尖らせた。

「でも大丈夫だと思うよ。パパは会社でサボり魔みたい。仕事してるところ全然見なかったもん。パソコンを1回開いて、電話を2回かけただけで、残りの時間は全部猫と遊んでたよ。」

鈴木之恵は横に立っている藤田深志を見上げ、思わず笑みを漏らした。弘美の数言で彼女の父親の印象が台無しになり、多忙な大社長が事務所で猫と遊ぶサボり魔になってしまった。

「弘美、パパはきっと仕事を後回しにしてあなたと一緒にいてくれたのよ。普段はとても忙しいの。」

鈴木弘美は大きな目をパチパチさせ、数秒考えてから尋ねた。

「本当?じゃあ、今度からパパの会社に行かないようにする。」

鈴木弘美は藤田深志に対して「パパ」と呼びたがらないのに、鈴木之恵と話すときは「パパ」と呼び続け、当の本人が後ろに立っているのを完全に無視していた。

藤田深志は「パパ」という言葉を聞いた時、瞳が揺らめいた。先ほど鈴木之恵と小川淳が仕事の話をしているのを見て感じた胸の痛みが効果的に慰められた。

「弘美、パパは忙しくないよ。いつでも会社に来ていいから、今度はお兄ちゃんも一緒に連れておいで。」

やっと弘美が自分を受け入れ始めたところなのに、忙しいなんて言えるはずがない。忙しくても時間を作らなければ。藤田深志は口元に笑みを浮かべ、妻と子供たちを家に連れ戻すための突破口を見つけたようだった。

やはり娘は頼りになる。

鈴木弘美は鈴木之恵の腕を揺すりながら、急いで喜びを分かち合いたそうにした。

「ママ、下に行って私の猫たち見ない?いろんな色があるの。エルサのお家の猫よりも可愛いよ。」