第367話 子供の虜

鈴木之恵がベランダに向かう前に、藤田深志が途中で彼女を遮り、大きな手で彼女の手首を掴んで脇へ引っ張った。

「之恵、私が片付けるよ」

普段は怒らない鈴木之恵だが、藤田深志は彼女のその表情を見て子供を叩くのではないかと思い、急いで彼女を脇に引っ張り、自分で掃除道具を持って片付け始めた。土を全て取り除いて床を拭き、ようやく床がきれいになった。

鈴木之恵は彼に椅子に座らされ、落ち着いて後片付けを見ていた。八木真菜はいつの間にか隣に座り、彼女の耳元に近づいて、

「之恵、この藤田社長、前とちょっと違うみたいね。どう言えばいいのかしら?」

八木真菜は頬に手を当てて考え込んで、

「今は生活感が出てきたような気がする。トイレでも使用人に紙を渡してもらうような坊ちゃまだと思ってたのに、床掃除までできるなんてね?」

鈴木之恵は額に手を当てた。彼は障害者じゃないのに……

藤田深志は床掃除を終えると、両手で子供たちを引き連れてトイレへ手を洗いに行った。二人の子供はまるで泥んこ遊びをしたようだった。

八木真菜はこちらに座ったまま、こっそり観察していた。藤田深志が子供たちの手を洗い終えて出てくると、ティッシュで鈴木弘美の手を丁寧に拭いているのを見て、思わず評価を述べた。

「なかなかいいパパぶりじゃない?子供の面倒も見れるし、もっと磨けば五つ星パパになれそう」

鈴木之恵はちっと舌打ちして、

「手を洗っただけで、そんなに感心することない。あなたの橋本さんだって、仕事が忙しいだけで何も問題ないでしょ。きっと子育ても上手くできるはず」

八木真菜は口を尖らせて、

「冗談じゃないわ。あの人ったら男尊女卑の塊よ。子育ての手伝いなんて期待したら先祖が泣くわ」

八木真菜は言い終わると、肩で鈴木之恵を軽く突いて、

「でもね、藤田社長は可能性があると思うの。産科で毎日どれだけの父親予備軍を見てるか知らないでしょ?あの手の男たちときたら、パパになる喜びに浸るばかりで、奥さんの妊娠の苦労なんて全然分かってない。妊婦の注意点を聞いても何も知らないのよ。そんな男に将来の育児を期待できると思う?」

鈴木之恵は心から感慨深げに、

「女性って本当に大変ね。結婚って女性に何をもたらすのかしら?」

八木真菜は肩をすくめて、