藤田深志が階段から出てくると、鈴木之恵が病室の前で携帯電話を手に番号を押していた。先ほどの病室の雰囲気が良くなかったことを、彼女は感じ取っていた。
藤田深志と藤田晋司が出て行った後、彼女は数分間苦しみ、適当な言い訳をして後を追った。
藤田深志の携帯の着信音が廊下に響き、鈴木之恵が顔を上げると、二人の視線が重なった。
「大丈夫?」
「心配してくれてるの?」
二人がほぼ同時に口を開いた。
次の瞬間、藤田深志はにっこりと微笑んで、
「大丈夫だよ、中に戻ろう」
鈴木之恵の心配そうな表情に藤田深志は満足げで、先ほどの藤田晋司との会話を思い出さずにはいられなかった。
叔父には最初からチャンスなんてなかった。たとえ本気で鈴木之恵のことを好きだったとしても、チャンスはなかった。ましてや彼女を代替品としか見ていないのだから。
藤田深志の身に纏わりついていた冷たい空気が一気に消え、長い脚で歩み寄ると、自然に彼女の細い腰に手を回して、
「入ろう、おじいさまが不審に思うよ」
二人が病室に戻ると、今村執事が本邸から物を取りに戻ってきていた。おじいさまは二つの素敵な祝儀袋を鈴木弘文と鈴木弘美に手渡そうとしていた。
「この祝儀袋は4年遅れてしまった。曾祖父さんも4年間、君たちを抱きしめる時間を逃してしまった。私の大切な宝物たちが健康で、幸せで、一生心配事がないことを願っているよ」
鈴木弘文と鈴木弘美は受け取るのを躊躇い、パパとママの方を振り返った。ママは他人の物を勝手に受け取ってはいけないと教えていたが、目の前の曾祖父さまは東京都のおばあちゃんのように親しみやすく、曾祖父さまからの物を受け取っていいのかどうか迷っていた。
おじいさまは笑って言った。
「おバカさんたち、手を出しなさい。何を彼らの顔を見ているの?曾祖父さまの持っている物は全部宝物たちのものだよ。遠慮することはないの。これからの藤田家全てが君たち二人の小悪魔のものなんだから、早く手を出しなさい」
藤田深志は眉を少し上げ、口角を上げて言った。
「受け取りなさい。曾祖父さまからのものは受け取っていいんだよ」
鈴木之恵もうなずいて承諾を示した。
鈴木弘文と鈴木弘美はようやく勇気を出して祝儀袋を受け取った。