藤田深志が階段から出てくると、鈴木之恵が病室の前で携帯電話を手に番号を押していた。先ほどの病室の雰囲気が良くなかったことを、彼女は感じ取っていた。
藤田深志と藤田晋司が出て行った後、彼女は数分間苦しみ、適当な言い訳をして後を追った。
藤田深志の携帯の着信音が廊下に響き、鈴木之恵が顔を上げると、二人の視線が重なった。
「大丈夫?」
「心配してくれてるの?」
二人がほぼ同時に口を開いた。
次の瞬間、藤田深志はにっこりと微笑んで、
「大丈夫だよ、中に戻ろう」
鈴木之恵の心配そうな表情に藤田深志は満足げで、先ほどの藤田晋司との会話を思い出さずにはいられなかった。
叔父には最初からチャンスなんてなかった。たとえ本気で鈴木之恵のことを好きだったとしても、チャンスはなかった。ましてや彼女を代替品としか見ていないのだから。