第380章 鈴木家の敷居

藤田深志が階段から出てくると、鈴木之恵が病室の前で携帯電話を手に番号を押していた。先ほどの病室の雰囲気が良くなかったことを、彼女は感じ取っていた。

藤田深志と藤田晋司が出て行った後、彼女は数分間苦しみ、適当な言い訳をして後を追った。

藤田深志の携帯の着信音が廊下に響き、鈴木之恵が顔を上げると、二人の視線が重なった。

「大丈夫?」

「心配してくれてるの?」

二人がほぼ同時に口を開いた。

次の瞬間、藤田深志はにっこりと微笑んで、

「大丈夫だよ、中に戻ろう」

鈴木之恵の心配そうな表情に藤田深志は満足げで、先ほどの藤田晋司との会話を思い出さずにはいられなかった。

叔父には最初からチャンスなんてなかった。たとえ本気で鈴木之恵のことを好きだったとしても、チャンスはなかった。ましてや彼女を代替品としか見ていないのだから。