藤田晋司は病室に長くは留まらなかった。あの二人の子供たちを見ると、心が落ち着かなかった。
天知る、彼は狂うほど嫉妬していた。
「お父さん、誰かが付き添っているなら、私は仕事に戻ります。何かあったら電話してください」
老人は手を振って、「行きなさい、こちらは大丈夫だ」と言った。
今は二人の可愛い孫たちが側にいるだけで十分だった。他の人は余計な存在だった。
藤田晋司は意味深な目で鈴木之恵を見つめ、そして立ち去った。
彼が出て行くと、すぐに藤田深志が後を追った。藤田晋司はエレベーターホールで立ち止まった。後ろの足音は聞こえていたが、無視することにした。
鈴木之恵を連れて行くことは既定の事実だった。他人が何を言おうと煩わしいだけで、彼の決意は揺るがなかった。
エレベーターのドアが開くと、藤田深志が冷たく声を掛けた。
「少し話さないか?」
藤田晋司は眼鏡を直しながら、片方の唇を軽く上げた。
「話す必要があるのか?」
叔父と甥は会社で表立って争い、祖父の前でだけ表面的な平和を保っていた。
二人の対立は水面下で行われ、正面から衝突することはまだなかった。
藤田深志の瞳は深く沈み、長い間抑圧されてきたような雰囲気を醸し出していた。
「叔父さんは体面を重んじる人だ。この些細な問題で藤田家の面目を潰したくはない」
藤田深志は本音で話し合おうとする意図を示していた。
もし藤田晋司が会社の経営権を争いに来たのなら、無視してもよかった。彼には自分の持ち物を守る能力と自信があった。
しかし藤田晋司が狙っているのは鈴木之恵だった。彼の人を、誰が狙おうと許さない。
藤田晋司は一瞬黙り込んだ。おそらく藤田深志がこれほど直接的な物言いをするとは予想していなかった。
エレベーターのドアは数秒開いた後、自動的に閉まった。藤田晋司は突然笑い声を上げ、階段口へと向かった。
二人は前後して階段室に入った。19階の階段は静まり返り、二人の男の呼吸音が静寂の中で競い合うように響いていた。
藤田深志はタバコを一本取り出して指に挟み、火をつけて深く一服し、そして強く吐き出した。薄い煙の向こうには冷たい表情の端正な顔があった。
「叔父さんはいつから私の女に目をつけているんだ?もう諦めたらどうだ?」
藤田晋司は煙で咳き込み、しばらく言葉が出なかった。