東京都。
鈴木之恵は一晩の休息を経て、体調は既に問題なくなっていた。
鈴木由典は彼女が朝食を食べ終わるのを見守り、病室で仕事を処理し始めた。帰る気配はなく、特に彼の秘書が何度も書類を持って来ては、仕事の報告をし、午前中はコマのように忙しく動き回っていた。
鈴木之恵は退屈そうに部屋の中を行ったり来たりしていた。退院したいと思ったが、鈴木由典は許可せず、この一日を過ごしてから明日の朝に退院手続きをするように言った。
「お兄さん、会社に戻ったら?こんなことされると、私、プレッシャーを感じちゃう」
彼女は元気な体で兄の仕事の邪魔をしたくなかった。藤田深志の側で3年間過ごした経験から、大企業の社長がどれほど忙しいかを知っていた。
鈴木由典は書類に署名を終えて脇に置き、テーブルの書類を全てファイルに収めてから、やっと顔を上げて彼女を見た。
「一人で大丈夫か?」
鈴木之恵は手足を動かしながら、学生時代の軍事訓練で習った軍事体操でも披露して自分が正常であることを証明したいくらいだった。
「お兄さん、私に何か問題があるように見える?」
昨夜は確かに怖い思いをしたけど、頭がおかしくなったわけでも、体が不自由になったわけでもない。どうして自分の面倒が見られないというの?
鈴木由典は眉を少し上げた。確かに午後には重要な用事があって外出する必要があった。秘書に後回しにするよう指示するつもりだったが、妹に特に問題がないように見えたので、説得された。
「じゃあ、これから会社に戻る。大人しくしていられるか?」
鈴木之恵はOKサインを作った。心の中では、兄が出て行った途端に退院手続きをして会社に戻ろうと考えていた。
鈴木由典という抜け目のない人間がそう簡単に騙されるはずもなく、妹の考えていることは見透かされていた。
「じゃあ、信頼できる看護師を付けておくから、夜に迎えに来る」
鈴木之恵の笑顔が徐々に崩れていった。これは監視役を付けられるということじゃないか!
鈴木由典は言ったことは必ず実行する人で、すぐに医師の友人に電話をかけ、信頼できる看護師を紹介してもらった。友人の対応は素早く、ちょうど今朝仕事が終わった看護師がすぐに来られると言った。
鈴木由典は電話を切り、相手に料金を振り込んだ。15分もしないうちに、中年の女性が彼が指定した病室番号を頼りにやって来た。